人が作った川

遠い昔にひとりの男が大きな荷物を担いでやってきて
崖線の下の水が湧き出ているところをねぐらにした
ねぐらからそう遠くないところには川が流れていて
川を泳ぐ魚や川辺の草むらにいる動物を獲ったり
木の実や草を採っての暮らしは
快適なものだった
洪水があるたびに川は流れを変え
男も度々ねぐらを変えた
しばらくするとねぐらは増えて
ある者は畑を作り ある者は田んぼを作り
道具を作るものや 物売りまでもが住み着いた
神社ができ 役所ができ 集会所ができ
川に沿って花の咲く木を植えるものまであらわれた
水は大切にされていて
川はみんなのものだった

不思議な時代がやってきて
水道が完備し 電線が張り巡らされ
水は蛇口から流れ あかりが家々に灯された
川は変わらず流れていたが 人との距離は遠くなり
水は有難いものから管理するものへと変わった
とはいっても利益を得るために管理したのではなく
人に害を及ぼさないように管理したのだ
岸はコンクリートで固められ
時に川は地下に埋められた
川は汚染し臭うようになり
誰も川に近づかなくなった

公害をなくそうと立ち上がった人たちがいて
自然を取り戻すのだと頑張って
コンクリートの岸は岩のような見かけになり
自然の川よりずっと川らしく見えるようになった
自然のように見えても自然ではなく
川のように見えても川でない
洪水はこないし 川は流れを変えない
崖線の斜面だけに木々の緑が残り
崖線の上も下も住宅で埋まる
男のねぐらはもうどこにもない

湧水が作られ 水の流れが作られ
鯉が放たれ 遊歩道が作られ
階段を降りれば水に近づけ
木は伐られ 若い木が植えられた
計画通りに作られた水の流れは
自然の川と呼ばれ
運ばれてきた花が咲き
写真を撮りに人が来る

人は人らしく川に関わればいいものを
川を管理しようなんて大それたことを考えて
川を自然に戻すと言いながら 自然から遠ざけ
川を人に近づけると言いながら 人から遠ざけた
洪水の起きない川は 流れを変えることがなく
100年経っても流れを変えない川は もう川とは呼べない
人が作った川は 人が作った四季を纏い
安全なだけの つまらない場所になる
それはまるで水道水の流れる川で
濁ることも汚れることもない

川が昔のようになることは
もうない

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