加藤周一

人は忘れ得ぬ女たちに、偶然の機会に、出会う。そのまま二度と会わぬこともあり、そのときから長いつき合いが始まって、それが終ることもあり、終らずにつづいてゆくとこもある。しかし忘れ得ないのは、あるときの、ある女の、ある表情・姿態・言葉である。それを再び見出すことはできない。 …
理解するとは、分類することである。一人の女が他の女に似ている点に注目する。あるいは、一人の男がもう一人の男に似ている点に。しかし愛するとは、分類を拒むことである。その女を愛するのは、他の誰にも似ていないから、つまりかけ替えがないからである。 …
評価することなしに創作することはできない。みずから絵を描くためには、みずから絵を評価しなければならない。画家が古典を必要とするのは、古典を模倣するためではなく、絵画を定義するためである。

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