一番大事なのは、“多様性があるほうが、社会が強くなる”という視点だと思います。SDGsを実現するには社会の変革が必要になります。多様性が高まることによって、人や価値観の新たなコラボレーションがうまれ、新しい発想やイノベーション(変革)のきっかけになることが期待されているのです。
多様性が利益を生み出すことは証明されていて、例えば、日本の研究では、男性ばかりの企業と比べて、正社員の女性比率が高い企業ほど、利益率が高くなることがわかっています。遺伝子の世界でも、一方の遺伝子はダメになっても別の遺伝子が生き残れば種全体として途絶えることが避けられるように、多様性は生き残り作戦としても大事なことなんですね。
なぜSDGsで「多様性」が大事なの?
蟹江憲史
https://www.nhk.or.jp/campaign/mirai17/kiji_diversity.html
「多様性」はSDGsを実現する上で大事なキーワードとされていますが、一体どういうことなのでしょうか。SDGsのスペシャリスト、慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授の蟹江憲史先生に教えてもらいました。
――SDGsでは多様性が大事だと言われますが、「多様性」と一口に言っても、その内容は様々ですよね。
蟹江:生態系から働き方、文化まで幅広いジャンルで多様性が語られていますよね。人間についていえば、性別・年齢・国籍などの「属性」の多様性と、価値観やライフスタイルなどの「思考」の多様性があると思います。最近では、女性管理職の割合を増やす取り組みや、LGBTQ(性的マイノリティー)の話題が注目されていますが、これらも多様性を高める動きのひとつですよね。特に日本は島国でもあるせいか同質なものを求める傾向があるので、多様性を意識的に考えなければいけないと思います。
――SDGsの中では「多様性」についてどのように触れられていますか。
蟹江:実は、17の目標で、「多様性」自体を掲げているものはないんですよ。ただ、SDGs全体に通じる「誰一人取り残さない」という理念や、「パートナーシップで目標を実現しよう」という目標17からもわかるように、SDGsの考えのベースに“多様性の尊重”があるといえるでしょう。実際に、各目標の達成基準の中では、女性や子ども、障害のある人、移住労働者など社会的に弱い立場になりがちな存在への配慮が繰り返し記されていて、多様な人々が活躍できる社会が描かれています。日本の場合、目標5の『ジェンダー平等を実現しよう』の達成度が低く、ジェンダー的な多様性が課題となっています。
――SDGsを達成する上で、どうして多様性が重要視されるのでしょうか?
蟹江:一番大事なのは、“多様性があるほうが、社会が強くなる”という視点だと思います。SDGsを実現するには社会の変革が必要になります。多様性が高まることによって、人や価値観の新たなコラボレーションがうまれ、新しい発想やイノベーション(変革)のきっかけになることが期待されているのです。
多様性が利益を生み出すことは証明されていて、例えば、日本の研究では、男性ばかりの企業と比べて、正社員の女性比率が高い企業ほど、利益率が高くなることがわかっています(注)。遺伝子の世界でも、一方の遺伝子はダメになっても別の遺伝子が生き残れば種全体として途絶えることが避けられるように、多様性は生き残り作戦としても大事なことなんですね。
(注)山本勲 「上場企業における女性活用状況と企業業績との関係― 企業パネルデータを用いた検証 ―」 2014年
――今後、私たちの間で、どうやって多様性への理解を広げていくかも大切ですね。
蟹江:そうですね。SDGsでは、様々な立場の人へ配慮することと、互いに理解し合うことを促進しています。例えば、目標4の『質の高い教育をみんなに』では、持続可能な開発を進めるために、すべての学習者が、人権、ジェンダー平等、グローバル・シチズンシップ(=地球市民の精神)、文化など、さまざまな多様性の尊重につながる知識とスキルを身につけることを掲げています。
最初に言った通り、特に日本は、意識しないと社会の多様性が見えにくい国です。でも、日常生活の中にも、探せば自分と異なる人と出会うきっかけが本当はたくさんあると思います。まずは、身近なメディアを通して、自分とは別の境遇で生きている人のことを知ることが、多様性を理解し受け入れ合う第一歩になるのではないでしょうか。