>救いようのない悪人を主人公に据えたシェイクスピア劇『リチャード三世』は、いつ上演してもなべて当たる。醜男が劣等感をバネにひたすら悪に徹し、一途に突き進む様は文句なしに爽快で、観客の共感をよぶ。
『中学生までに読んでおきたい日本文学① 悪人の物語』(松田哲夫編 あすなろ書房 1800円+税)は、「悪」をテーマにした、詩、小説、エッセイ等のアンソロジー。どれも教科書には入りにくい作品である。
小、中学生はふだん、「不道徳」や「悪事」に特別強い関心を持っている。だが公的にはそうしたマイナーな視線は目かくしされてしまう。結果一人でせっせとその手の映画や書籍を漁ることになる。それでいい。かく言う後期高齢者の、すでに彼らのじいさんの年齢である僕も、未だにそっちの方面に惹かれ、あれこれ漁り続けている。そんなわれわれにとって、これは貴重な本だ。