科学というのは一個人の研究で答えが出るものではないんです。特に僕が求めていた『生命とは何か』という本質的な疑問に対する答えは、少なくとも僕が生きている間には出ないと、研究しては一つの事柄を、文化や宗教、性別などを超えて、誰が見ても共通の理解を得られるようにするもので、それは一世代では成し得ず、受け継いでいくものです。でも美術の世界では、作品に対する意見や感想が観る人によって異なりますし、作品も一個人で完結です。美術は時代や世相、文化などの社会的要素を多分に含むので、同じ作品に対する評価に幅が出るんでしょうね。
移ろう染色体
染色作家 市場勇太
Face to Face Talk
星野新聞堂
https://www.facetofacefuji.com/wp-content/uploads/2020/01/vol_158.pdf
科学者は理性的で論理的、芸術家は直観的で感情的というイメージが一般的にはあるかもしれないが、この対極的な二つの分野をまたにかける人ももちろんいる。遺伝子の研究を手掛けたことがありながら、型染めで創作活動をしている市場勇太さんも、その一人だ。宇宙や生命の「なぜ?」を探求し、自分なりの答えを出そうと、移ろいゆく現象の理解に努める。形のない、でも本質的な何か。かつては研究者として、そして今は染色作家として、市場さんは自分の感じた世界を記録に残していく。「やっていることは同じなんですよ」と穏やかに語る市場さんには、科学と芸術の共通項が見えているのだろう。