何かが上達する時というのは、階段状だ。
ゆるやかに坂を登るように上達する、というのは有り得ない。
弾けども弾けども足踏みばかりで、ちっとも前に進まない時がある。これがもう限界なのかと絶望する時間がいつ果てるともなく続く。
しかし、ある日突然、次の段階に上がる瞬間がやってくる。
なぜか突然、今まで弾けなかったものが弾けていることに気づく。
それは喩えようのない感激と驚きだ。
本当に薄暗い森を抜けて、見晴らしの良い場所に立ったかのようだ。
ああ、そうだったのかと納得する瞬間。文字通り、新たな視野が開け、なぜ今までわからなかったのだろうと上って来た道を見下ろす瞬間。
ああいう幾多のポイントを経て、いまここでみんなステージに立っている。
蜜蜂と遠雷
by 恩田陸
(p. 329)