>橘玲 2 Replies > 日本の財政が破綻したら、以下の三つの経済事象が発生する(これ以外のことは起きない)。 国債価格の暴落にともなう金利の大幅な上昇 通貨が信任を失うことによる円安 高金利と円安が引き起こす高率のインフレ すなわち「国家破産」後の日本は、「低金利・円高・デフレ」の現在とまったく逆の世界になるのだ。
s.A 18/09/2011 at 2:27 am >このまま国の赤字を国債で穴埋めしていけば、いずれ行き詰まる(もし現状が維持可能なら、紙幣を刷るだけで儲かる錬金術になる)。↓この世に錬金術がないとしたら、持続不可能な借金は円安・インフレ・金利の上昇(国債の下落)によって帳尻を合わせるほかはない。 ここまでは誰も異存はないと思いますが、難しいのは、この3つが同時に起きるとはかぎらない、ということです。 そこで、日本国破綻の簡単なシミュレーションをしてみましょう。 そもそもの前提として、破綻とは国家の信任が失われることですから、国債の下落と金利の上昇は間違いありません(というか、これが起こらないと国家は破綻しません)。となると、起こりうるシナリオは以下の4つです。 ・シナリオ1:金利は上昇するが、円高とデフレは持続する。・シナリオ2:金利が上昇し、円安になるがデフレは持続する。・シナリオ3:金利が上昇し、インフレになるが円高は持続する。・シナリオ4:金利が上昇し、円安とインフレになる。 金利の上昇(国債の下落)が起こると、連鎖反応的に、以下のような事象がつづくことは(他国の例などから見ても)ほぼ確実です。 ・住宅ローン金利の上昇によって、変動金利でマイホームを購入していたひとたちが破綻する。→地価が下落する。・貸出金利の上昇によって、中小企業と負債の大きな大企業の経営が行き詰まる。→株価が下落する。・日本の銀行は国債を大量に保有しているので、時価評価によって莫大な赤字を計上することになる。・地価下落、株価下落、国債の評価損によって深刻な金融危機が発生する。・景気の悪化によって失業率が大幅に上がる。 そうなれば円は売られるでしょうが、これでインフレが起こるとはかぎりません。ジンバブエは国家破綻によってハイパーインフレに襲われましたが、97年のアジア通貨危機や07年の世界金融危機を見ても、金利上昇や通貨の下落は起きたものの、制御不能のインフレにはなりませんでした(シナリオ2)。 *経済学的には、公債の増発は貨幣需要を刺激し(国債価格の下落を嫌ってみんなが現金を持ちたがるから)、実質的な貨幣供給を減らすことで、短期的な効果としてはデフレ要因になります。 しかしだからといって、このままずっとデフレがつづくともいえません。日本は超高齢化と(将来の隠れ債務を含む)莫大な社会保障の負担を抱えており、これはインフレがなければ解消不可能だからです。 年金の受給額は景気が悪くなっても(実質的に)減額されませんから、金利の上昇や円安だけでは高齢者の生活はさほど影響を受けません。そればかりか、預金金利が上がれば利子によって暮らしが豊かになることもあるでしょう。 その一方で、国の国債利払い額は加速度的に膨らんでいきます。医療・介護サービスの水準を維持するとすれば、社会保障の赤字も大きくなる一方でしょう。これでは問題はなにも解決せず、またすぐに財政破綻するだけです。 このことから、どのような経緯をたどるかは別として、抜本的な社会保障改革ができなければインフレで帳尻を合わすほかはない、ということがわかります。 インフレになれば、名目での歳入(税収)は増えますが、債務の額は変わらないので、実質的な借金の棒引きになります。そのかわりに、高齢者と公務員、そしてサラリーマンの大半がそのしわ寄せを受けることになるでしょう。 年金受給額が物価にスライドする設計になっていても、基準額の改定は年1回ですから、急速なインフレにはとうてい追いつけません。不景気と失業率悪化のなかで、公務員給与を引き上げることは政治的に不可能ですから、公務員の実質賃金は大幅に下落することになるでしょう(これでようやく、「公務員改革」が実現します)。 終身雇用と年功序列の日本的な雇用制度では、企業は降格や減給をすることができません。しかしインフレになれば、昇給率の調整だけで実質的な減給が可能になります。それによって、これまで対等に扱われていた専門職(クリエイティブクラス)とバックオフィス(マックジョブ)が、成果主義に基づいて二極化していくことになるでしょう。 その一方で、円安によって日本の輸出産業は息を吹き返します(ウォン安で業績を急回復させたサムソンのように)。円安と同時に地価と株価が下落すれば、海外投資家(投機家)にとってきわめて魅力的ですから、いずれかの時点で買戻しが入ることは間違いありません。 このようにして、社会的弱者の死屍累々たる犠牲のうえに新富裕層が登場し、日本経済はようやく長いトンネルを脱するのかもしれません。暗鬱な未来ですが……。 私は預言者ではないので、いつどのようにしてインフレになるのかはわかりませんが、現在の(どうしようもない)政治状況がつづくかぎり、それは必ずやってくるでしょう。 Reply ↓
s.A 18/09/2011 at 10:27 pm >http://www.tachibana-akira.com/作家・橘玲(たちばな・あきら)のホームページ ここに公開する文章は、とくに断りのあるものを除き、クリエイティブ・コモンズとします。 1. すべてのページはリンクフリーで、事前・事後の通知は必要ありません(ご自由にどうぞ)。 2. 出典を明記してあれば文章の引用は自由です。通知も必要ありません。 3. 著作権(©橘玲)、オリジナルURLおよび転載自由の旨が明記してあれば、文章の転載は自由です。通知も必要ありません。 4. 自分の方がもっとうまく書けるという方は、上記の条件を満たし、変更箇所を明示すれば、文章の改変も自由です。この場合は、どのように変わったか興味があるので、ご一報いただければ幸いです。 5. 著作権者の許諾なく商業利用はできません。 6. その他の細目はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示・非営利・継承 2.1 (http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/2.1/jp/) に準じます。 Reply ↓
>このまま国の赤字を国債で穴埋めしていけば、いずれ行き詰まる(もし現状が維持可能なら、紙幣を刷るだけで儲かる錬金術になる)。
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この世に錬金術がないとしたら、持続不可能な借金は円安・インフレ・金利の上昇(国債の下落)によって帳尻を合わせるほかはない。
ここまでは誰も異存はないと思いますが、難しいのは、この3つが同時に起きるとはかぎらない、ということです。
そこで、日本国破綻の簡単なシミュレーションをしてみましょう。
そもそもの前提として、破綻とは国家の信任が失われることですから、国債の下落と金利の上昇は間違いありません(というか、これが起こらないと国家は破綻しません)。となると、起こりうるシナリオは以下の4つです。
・シナリオ1:金利は上昇するが、円高とデフレは持続する。
・シナリオ2:金利が上昇し、円安になるがデフレは持続する。
・シナリオ3:金利が上昇し、インフレになるが円高は持続する。
・シナリオ4:金利が上昇し、円安とインフレになる。
金利の上昇(国債の下落)が起こると、連鎖反応的に、以下のような事象がつづくことは(他国の例などから見ても)ほぼ確実です。
・住宅ローン金利の上昇によって、変動金利でマイホームを購入していたひとたちが破綻する。→地価が下落する。
・貸出金利の上昇によって、中小企業と負債の大きな大企業の経営が行き詰まる。→株価が下落する。
・日本の銀行は国債を大量に保有しているので、時価評価によって莫大な赤字を計上することになる。
・地価下落、株価下落、国債の評価損によって深刻な金融危機が発生する。
・景気の悪化によって失業率が大幅に上がる。
そうなれば円は売られるでしょうが、これでインフレが起こるとはかぎりません。ジンバブエは国家破綻によってハイパーインフレに襲われましたが、97年のアジア通貨危機や07年の世界金融危機を見ても、金利上昇や通貨の下落は起きたものの、制御不能のインフレにはなりませんでした(シナリオ2)。
*経済学的には、公債の増発は貨幣需要を刺激し(国債価格の下落を嫌ってみんなが現金を持ちたがるから)、実質的な貨幣供給を減らすことで、短期的な効果としてはデフレ要因になります。
しかしだからといって、このままずっとデフレがつづくともいえません。日本は超高齢化と(将来の隠れ債務を含む)莫大な社会保障の負担を抱えており、これはインフレがなければ解消不可能だからです。
年金の受給額は景気が悪くなっても(実質的に)減額されませんから、金利の上昇や円安だけでは高齢者の生活はさほど影響を受けません。そればかりか、預金金利が上がれば利子によって暮らしが豊かになることもあるでしょう。
その一方で、国の国債利払い額は加速度的に膨らんでいきます。医療・介護サービスの水準を維持するとすれば、社会保障の赤字も大きくなる一方でしょう。これでは問題はなにも解決せず、またすぐに財政破綻するだけです。
このことから、どのような経緯をたどるかは別として、抜本的な社会保障改革ができなければインフレで帳尻を合わすほかはない、ということがわかります。
インフレになれば、名目での歳入(税収)は増えますが、債務の額は変わらないので、実質的な借金の棒引きになります。そのかわりに、高齢者と公務員、そしてサラリーマンの大半がそのしわ寄せを受けることになるでしょう。
年金受給額が物価にスライドする設計になっていても、基準額の改定は年1回ですから、急速なインフレにはとうてい追いつけません。不景気と失業率悪化のなかで、公務員給与を引き上げることは政治的に不可能ですから、公務員の実質賃金は大幅に下落することになるでしょう(これでようやく、「公務員改革」が実現します)。
終身雇用と年功序列の日本的な雇用制度では、企業は降格や減給をすることができません。しかしインフレになれば、昇給率の調整だけで実質的な減給が可能になります。それによって、これまで対等に扱われていた専門職(クリエイティブクラス)とバックオフィス(マックジョブ)が、成果主義に基づいて二極化していくことになるでしょう。
その一方で、円安によって日本の輸出産業は息を吹き返します(ウォン安で業績を急回復させたサムソンのように)。円安と同時に地価と株価が下落すれば、海外投資家(投機家)にとってきわめて魅力的ですから、いずれかの時点で買戻しが入ることは間違いありません。
このようにして、社会的弱者の死屍累々たる犠牲のうえに新富裕層が登場し、日本経済はようやく長いトンネルを脱するのかもしれません。暗鬱な未来ですが……。
私は預言者ではないので、いつどのようにしてインフレになるのかはわかりませんが、現在の(どうしようもない)政治状況がつづくかぎり、それは必ずやってくるでしょう。
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作家・橘玲(たちばな・あきら)のホームページ
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