土地売買の規制は外資も含めほぼ皆無、一方で土地所有者の権利(私権)は際立って強い-。2010年、「外資による森林買収」が北海道議会で初めて明らかにされて以来、世界でも特異な日本の土地制度があらためて浮き彫りになっている。
一方で土地取引を取り巻く環境は経済のグローバル化、過疎に伴う不在地主の増加など急速に様変わりしている。関係省庁がバラバラに土地情報を管理する旧態依然の現行制度では、その変化に追い付けず、外資による森林買収の実態どころか、納税義務者を把握できないまま固定資産税を欠損処理するケースも増えている。
これでは国土を健全に保全するのは難しい。水源地だけでなく国境近くに位置する離島や防衛施設、空港、港湾などを「重要な国土」に指定し、売買や利用を監視・規制していく必要がある。
欧米各国では、あらかじめ土地の利用に厳しい規制を課し、実質的に所有権を制限する方法や重要なインフラに対する外資の投入について政府がいつでも介入できる制度などを設け、国土の保全を図っている。農地以外の土地売買に規制がなく、外資の規制も皆無という日本の姿は世界でも稀有(けう)で、あまりにも無防備である。
近年、山林だけでなく、沖縄の米軍基地用地や長崎県・対馬などでも外資による土地買収がうわさされ、真相がはっきりしないまま不安が増幅している。いたずらな動揺を防ぐためにも現状を迅速に把握し、国土をどう保全していくか、法整備も含めた国家戦略を早急に打ち出さなければならない。
日本財団会長・笹川陽平 外資の手から「重要な国土」守れ
産経新聞 正論
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130517/plc13051703100002-n1.htm
土地売買の規制は外資も含めほぼ皆無、一方で土地所有者の権利(私権)は際立って強い-。2010年、「外資による森林買収」が北海道議会で初めて明らかにされて以来、世界でも特異な日本の土地制度があらためて浮き彫りになっている。
一方で土地取引を取り巻く環境は経済のグローバル化、過疎に伴う不在地主の増加など急速に様変わりしている。関係省庁がバラバラに土地情報を管理する旧態依然の現行制度では、その変化に追い付けず、外資による森林買収の実態どころか、納税義務者を把握できないまま固定資産税を欠損処理するケースも増えている。
《土地取引の規制求める地方》
これでは国土を健全に保全するのは難しい。水源地だけでなく国境近くに位置する離島や防衛施設、空港、港湾などを「重要な国土」に指定し、売買や利用を監視・規制していく必要がある。
外資による森林買収について、国は民主党政権時代の11年春、森林法を改正し森林売買の「事後報告」を義務付けた。しかし、しばしば道路建設などを遅滞させる私権の強さを前に「事後報告後」に取り得る対策には限界がある。100を超す自治体が国に規制の強化を求める意見書を提出し、11道県は条例を制定し水源地域の土地売買の事前届け出や買収後の利用計画の明確化などを義務付けた。
外国人、外国法人による森林買収について、国土交通省は06年から7年間の実績を「北海道、群馬、沖縄など8道県で計68件801ヘクタール」と公表している。しかし外国企業が日本企業名義で土地を購入する名義貸しや未届けの土地売買も多く、どこまで実態を反映しているか疑問。現に北海道庁が水資源保全地域に指定した土地の4000人を超す所有者に条例内容などを郵送で通知したところ4割以上が宛先不明で返送された。
土地売買をめぐっては、農地法が農地の転用について都道府県知事らの許可制を定めている以外に何らの規制はない。土地情報は地籍調査、国土利用計画法に基づく土地売買届け出、不動産登記簿、固定資産課税台帳などを通じて関係省庁が個別に作成・管理しているが、土地に関する戸籍である地籍は開始以来、60年以上経た現在も進捗(しんちょく)率が50%にとどまる。
《明治以来の制度で対応できぬ》
急速に進む少子高齢化、過疎に伴い村外、県外への所有者の拡散が進み、国土の約4割を占める私有林の4分の1は不在地主との数字もある。経済のグローバル化が土地取引を一層、複雑にしており、明治以来の古い土地制度で対応するのは無理がある。土地取引の実態を迅速に把握し、情報をトータルに管理・共有できるシステムの構築に向け、関連法の改正や新法の制定を急ぐ必要がある。
欧米各国では、あらかじめ土地の利用に厳しい規制を課し、実質的に所有権を制限する方法や重要なインフラに対する外資の投入について政府がいつでも介入できる制度などを設け、国土の保全を図っている。農地以外の土地売買に規制がなく、外資の規制も皆無という日本の姿は世界でも稀有(けう)で、あまりにも無防備である。
もちろん、戦前は外国人土地法(1925年制定)で、日本人による土地取得を認めない国の国民や法人による日本の土地取得を相互主義の立場で制限し、勅令により、「国防上、必要な地区」に指定した島や港湾の外国人による取引を禁止・制限していた。
《現状を把握し国家戦略を》
現在は、世界貿易機関(WTO)の「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)で、土地取得について外国人を日本人と同様に待遇することを国際的に約束しており、直ちにこれを見直すのは難しい。こうした中で、安全保障、資源保全両面から国土の保全を図るには、「重要な国土」の指定こそ現実的である。
一昨年末、長崎県・五島列島の無人島に関する調査結果が五島市から公表された。これによると52の無人島のうち実に17島は民有だった。島の一つが売りに出され、市民から不安の声が出たのが調査のきっかけで、当面の売却は見送られた。だが、国境に近接し、成り行きによっては、新たな国際紛争の火種となる可能性さえ秘めた島々を民有のまま放置した現状は、厳しい国際情勢の中で、あまりに能天気である。
「重要な国土」に関しては、昨春、外国人による土地取得に関する民主党のプロジェクトチームも中間報告で同様の考えを打ち出した。安倍晋三首相も3月の参院財政金融委員会で、「安全保障上、何をなすべきか、新たな法整備も含め、しっかりと研究したい」旨の発言をしており、与野党が協力できる余地は十分あるはずだ。
近年、山林だけでなく、沖縄の米軍基地用地や長崎県・対馬などでも外資による土地買収がうわさされ、真相がはっきりしないまま不安が増幅している。いたずらな動揺を防ぐためにも現状を迅速に把握し、国土をどう保全していくか、法整備も含めた国家戦略を早急に打ち出さなければならない。