違い

余計なことをたくさん知っていると
突然気づいた
新聞でも テレビでも インターネットでも
余計なことは余計なこと
会ったこともない人の犯罪や私生活
遠い国の事件や政治
スポーツ選手の試合結果や収入
知らなくてもいいことは多い

では
知らなくてはならないのは何か
余計でないことは何か
花の名前や木の名前は 山の名前や森の名前は
そして 色の名前は 知らなくてはならないか
鼠色(0, 0, 0, 55)と灰色(0, 0, 0, 68)と鉛色(3, 0, 0, 65)は
みんな グレイ(0, 0, 0, 65)じゃないか
ジョンブリアン(0, 13, 100, 0)もイエロー(0, 13, 100, 0)も
黄色(0, 15, 100, 0)じゃないか
ヘイズル(28, 68, 92, 20)という色が どんな色か
知らなくても いいじゃないか

どちらが右でどちらが左とか
どちらが東でどちらが西とか
今が何時何分何秒だとか
今日が何年何月何日の何曜日とか
ほんとうに知らなければならないことなのか
知らなくても わかることなのではないか
夜が来ると暗くなる
南向きの部屋は暖かい

そう
たぶん
知らなくてもいい
でも
それでも私たちは
言葉に心を込める
どうでもいいことだけど
いや
どうでもいいことだからこそ
言葉に感情を込める

胡粉(0, 0, 2, 0)と
鉛白(1, 1, 3, 0)と
白土(2, 0, 2, 1)と
どれも
乳白色(0, 0, 3, 0)のような色だけれど

胡粉は貝殻を砕いた粉で
 炭酸カルシウムの白だし
鉛白は毒性のある顔料で
 塩基性炭酸鉛の白だし
白土は名前通りの白い土で
 珪酸アルミニウムの白だし
乳白色の乳のような白とは
成分が違う

それだけではない
込められた思いがまったく違う
同じに見えても
違う色なのだ

違う名前の色は
それぞれに違う

色が違うというのではない
違うのだ
紫式部が感じた色と
ホメロスが感じた色は
違う
たとえ同じ色だとしても
違う

君への気持ちも
他の誰の気持ちとも違う
他のどんな気持ちとも違う
君はひとりしか いない
僕もひとりしか いない
だから誰の気持ちとも 違う
誰とも 違う

2 thoughts on “違い

  1. shinichi Post author

    (sk)

    第262作
    Difference

    久保田智広
    http://www.kushima.org/?p=56741

    Less is Different: Emergence and Reduction Reconciled
    J. Butterfield
    https://link.springer.com/article/10.1007/s10701-010-9516-1
    から何らかの刺激を受けて

    **

    有徴と無徴

    by 久保田智広

    http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-SanJose/5780/yuucho.html

    日本語では、「茶」といえば緑茶のことで、 紅茶を「茶」と省略することはできません。 一方、英語では「tea」といえば紅茶のことで、 「green tea」を「tea」と省略することはできません。 ここで、「茶」「tea」を「無徴」、「紅茶」「green tea」を 「有徴」といいます。つまり、「紅茶」「green tea」は、 「茶」「tea」にくらべて“徴(しるし)”を余分に持ってるわけです。

    Reply
  2. shinichi Post author

    (sk)

    More is different.
    – P. Anderson
    Science 177, 393–396 (1972); reprinted in Bedau and Humphreys (eds.): Emergence: Contemporary Readings in Philosophy and Science. MIT Press/Bradford Books, Cambridge (2008)

    Less is different.
    – J. Butterfield
    Less is Different: Emergence and Reduction Reconciled. Found Phys 41, 1065–1135 (2011).

    Reply

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