警察の負担を示す指標に人口比を用いることは、国民を監視の対象とする発想に基 づいている。指標としてこれは妥当とはいえず、実際に処理を迫られている犯罪の量 を指標として用いるべきである。例えば、上述の殺人発生率を指標としてアメリカと 比べれば、米国は日本の4.67倍の殺人発生率なのであるから、警察官一人あたりの負 担人口に換算したとして”日本:アメリカ=4.67:1”となってはじめて、同等の負担 といえる。前掲『警察白書』によれば、その比率は”日本:アメリカ=1.57:1”であ るわけだが、これでもなお、「日本でも警察官を増やすべき」であろうか。
荒木伸怡
薬物犯罪・諸外国の犯罪動向との対比・警察力の国際比較
http://cl.rikkyo.ne.jp/cl/2005/internet/zenki/gakuin/homu/araki/keijigaku/keijigaku-4.html
「フランス・ドイツ・英国・米国と日本との国際比較」では、罪種・各国の刑法(特に犯罪構成要件)・統計 の取り方等が統一されておらず、単純に比較することはできない。さらに、国ごとに 文化や社会状況の違いが存在し、生起する犯罪の態様が異なる可能性もある(例えば 車社会では、電車社会で問題となる痴漢犯罪はそもそも起こりようがない)。ここに 国際比較の難しさがある。
例えば、米国のデータである「放火を除く指標犯罪(Crime Index offense)」についてみると、まず、1)米国は51の”国”から成り、51の異なる刑法が存在 する。そのため、同一の事実が異なる州で同一の犯罪になるという保障がない(米国 建国の経緯からして、地域間の文化差は大きい)。また、2)米国は自治体警察の制 度をとっており、上記データはそこからの報告に基づくものであるが、調査・報告に 割ける余力や資金面等の環境が各警察によって異なるため、報告の精度が均一ではな く、あくまで推定値の域を出ない。この点が、中央集権的で官僚制をとる日本との違 いである。
犯罪の量を国際比較するときは、人口規模の影響を受けることから、認知件数では なく発生率を用いるべきである。「5か国における主要な犯罪の認知件数・発生率・ 検挙率」によれば2002年において、1)発生率は英国が最も多く (11,240件/10万人)、日本が最も少ない(2,240件/10万人)、2)検挙率はドイツ が最も高く(52.6%)、それ以外は20%台である。なお、日本の検挙率は顕著に低下し ている。但し、何をもって治安の良さの基準とするかは検討の余地があるが、仮に殺 人を指標にしたとして、発生率は日本が最も少なく(1.2件/10万人)、米 国が最も多い(5.6件/10万人)。
宮澤は、『警察白書』から「警察官一人あたりの負担人口の 国際比較」(日本;555人,アメリカ;354人,西ドイツ;315人)を引用し、「我が国 の警察官の負担は著しく重いものとなっており、今後とも警察力の整備に努める必要 がある」との警察庁の主張を引用している。