誰の知識

インターネットで検索をすると
アルゴリズムだかなにかに誘導されて
偶然なのか必然なのか
誰かが載せた情報にたどり着く

なぜそこにたどり着いたのかもわからずに
目に入った情報を信じてしまえば
誘導する情報に騙され
金儲けの情報に足をすくわれる

文字や数字は編集されていて
画像や映像は加工されていて
どの情報も手垢とシミだらけ
どこかに無垢な情報はないものか

検索を続けていたら
もっともらしい情報が嘲笑う
人間だって手垢とシミだらけじゃないか
無垢な人なんてどこにもいないじゃないか

正しいか間違っているかもわからない
不完全な情報や不確かな情報から
どんな判断をしたとしても
それが正しいわけがない

自分ひとりの知識だと思っていても
その知識はじつは誰かの知識で
理解した気になってはいても
理解がなにかも理解していない

本を買えば本を読んだつもり
映画館に入れば映画を見たつもり
旅行に行けば景色を眺めたつもり
つもりがないのは つもりじゃない

他人から得た考えと自分の経験が重なって
自分の考えができあがったというけれど
自分の経験のほとんどは他人との経験で
自分の考えは結局は他人の考えでしかない

自分のものと思っている知識も
他人の知識の断片のコピーばかり
この人の知識もあの人の知識も
他人の知識の断片のコピーばかり

自分の知識は自分の知識
他人の知識も自分の知識
本のなかの知識も自分の知識
社会の知識も自分の知識

他人の知識がなくて
本のなかの知識もなくて
社会の知識もなかったら
自分だけの知識はとても小さい

知的所有権とかいいながら
知を自分のものにして
社会の知を独り占めして
カネを稼いでいる人がいる

自分 自分と言わないで
自分だけを頼りにしないで
自分は全体の一部なのだと
謙虚になってみよう

そんなことを考えていたら
人間が植物に見えてきた
人間が種として生き延びるためには
ひとりひとりはどうでもいいのだ

そう思った途端
自分 自分と言いたくなった
人間の種なんかどうでもいい
僕は僕でやっていく

人間全部のために生きたりしない
自分のためだけに生きる
人間全部のことなんか思わない
君のことだけを思う

One thought on “誰の知識

  1. shinichi Post author

    (sk)

    第219作
    Whose Knowledge?

    The Knowledge Illusion: Why We Never Think Alone
    by Steven Sloman, Philip Fernbach

    The Laws of Medicine: Field Notes from an Uncertain Science
    by Siddhartha Mukherjee
    から何らかの刺激を受けて

    Reply

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