遠藤周作

FukaiKawa2この男と結婚していれば、幸福だったろうか、それとも矢野以上に退屈だったろうか、と美津子は思う。
「それにぼくは玉ねぎを信頼しています。信仰じゃないんです」
「あなたは・・・・・破門にはならないの」と彼女はからかった。「今でも破門ってあるんでしょ」
「修道会からは、ぼくには異端的な傾向があると言われますが、まだ追い出されません。でも、ぼくには自分に嘘をつくことができないし、やがて日本に戻ったら」彼はしゃぶるようにスープを口に入れた。「日本人の心にある基督教を考えたいんです」

FukaiKawa「神とはあなたたちのように人間の外にあって、仰ぎ見るものではないと思います。それは人間のなかにあって、しかも人間を包み、樹を包み、草花を包む、あの大きな命です」

「本当に馬鹿よ。あんな玉ねぎのために一生を棒にふって。あなたが玉ねぎの真似をしたからって、この憎しみとエゴイズムしかない世のなかが変る筈がないじゃないの。あなたはあっちこっちで追い出され、挙句の果て、首を折って、死人の担架で運ばれて。あなたは結局は無力だったじゃないの」


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