- 戦略は言葉 (rhetoric) である。言語能力は政治の基本である。そして、戦略も、時間軸を含んだ起承転結の rhetoric で表現されることが重要である。
- 戦略は本質洞察である。事実は目に見えるが、本質は目に見えない。データは事実であるが、戦略思考にはその背後にある真の意味やメカニズムを読む洞察力が要請される。
優れたリーダーは状況一つひとつの独自性と具体的な違いをありのままに嗅ぎ分け、認識する能力があると同時に、より大きなテーマの中で細部を総合する能力がある。
- 戦略は賢慮である。
知の総合としてのリーダーシップというコンテクストから、アリストテレスの知の概念を今日の言葉でとらえ直すとするならば、総合されるべきものは科学的知識としての理論的な know-why、実践的なスキルとしての know-how、そして実現すべき価値(達成すべき目的)としての know-what にほかならない。
- 日本軍にはなぜ逆転がなかったのか。この問いに対する最も単純な答えは、物量の面で絶対的に劣っていたから、というものだろう。しかし、物量は逆転の必要条件であつても十分条件ではない。
物量の面で劣勢であっても、優勢な敵に勝った国の例は少数ながら存在する。
日露戦争での日本、中国の国共内戦での紅軍、ベトナム戦争での北ベトナム。したがって、大東亜戦争時の日本軍はそうした例に見られる物量的劣勢を相殺する戦い方ができなかったということになる。
特攻作戦で散華した将兵の崇高さをいささかも貶めるつもりはないが、その作戦が統帥の外道であることは否定の仕様が無い。問題は、劣勢を挽回するための、あるいはその進行を少しでも遅らせるための戦い方として、特攻作戦しか思いつかず、それしか実行されなかったことである。それは、大東亜戦争の日本軍の戦略不在を象徴するものであった。
ただし、逆転するためには、戦略の本質を理解しなければならない。誠実な努力や、周到な準備や、僥倖や、相手の好意だけに頼っていては、逆転はなしえない。
戦略の本質 – 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ
by 野中郁次郎, 戸部良一, 鎌田伸一, 寺本 義也, 杉之尾宜生, 村井友秀