通り過ぎてきた時間は儚くて、てのひらに載せるとすぐに溶けてしまう淡雪のようなものかもしれない。だが私たちは、淡雪がてのひらに載った時の、そのつめたくて気持ちのいい感触だけは終世、忘れないのである。におい、色、気配、そのすべてを覚えているのである。幸福な記憶というのはそういうことを言うのだろう。
通り過ぎてきた時間は儚くて、てのひらに載せるとすぐに溶けてしまう淡雪のようなものかもしれない。だが私たちは、淡雪がてのひらに載った時の、そのつめたくて気持ちのいい感触だけは終世、忘れないのである。におい、色、気配、そのすべてを覚えているのである。幸福な記憶というのはそういうことを言うのだろう。
てのひらの淡雪
by 小池真理子
文藝春秋 2014年2月特大号
小池 真理子(こいけ まりこ、1952年10月28日 – )は、日本の小説家。夫は同じく小説家の藤田宜永。
(sk)
幸福な記憶
不幸な記憶
忘れないこと
忘れてしまったこと
淡雪がてのひらに載った時の
そのつめたくて気持ちのいい感触だけは終世
忘れない
気持ちのいい感触
におい、色、気配
終世忘れないこと
幸福な記憶
夢は現実になり
現実は夢になる
すべては空に
すべては心のなかに
ひとたび、「なぜ?」と疑問をもちだすと、人は前に進めなくなってしまうものだ。
指輪仮面のマドンナ
by 小池真理子
自分自身を覗き込むことに耐えられず、逃げ出して、表層の人生を楽しんでいるだけの人に、本当に美しい人がいたためしがない。
小池真理子