日本こそ孔子以前から孔子の教えを実施する道義国家である。『天地の至誠、天地の天地たるゆゑにして、生々無息造物者の無尽蔵、悠久にして無彊の道也。聖人これに法りて天下万世の皇極を立て、人民をして是れによらしむるゆゑん也』。日本こそ中つ朝であり即ち中華である。日本書紀に日本を「葦原中國」と記すように日本こそ中国である。皇祖の天照大神の統治の御心は至誠そのものであり、君子もまた至誠そのものであり、人民も徳に生きる。
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ひとたび打ち立てられた皇統は、かぎりない世代にわたって、変わることなく継承されるのである。……天地創造の時代から最初の人皇登場までにおよそ二〇〇万年が経ち、最初の人皇から今日までに二三〇〇年が経ったにもかかわらず……皇統は一度も変わらなかった。
中朝事実
by 山鹿素行
1669(寛文9)年
上皇統
天先章(天地自然の生成について論ずる)
中国章(風土の状況について論ずる)
皇統章(皇統の万世一系なることについて論ずる)
神器章(三種の神器について論ずる)
神教章(教学の本源について論ずる)
神治章(政治体制の基本について論ずる)
神知章(人間を知ることの重要性について論ずる)
下皇統
聖政章(聖教の道を論ず。政治教化の基本について論ずる)
礼儀章(礼儀の在り方について論ずる)
賞罰章(賞罰の公正平明について論ずる)
武徳章(武の意義について論ずる)
祭祀章(祭祀の誠心について論ずる)
化功章(徳化の功について論ずる)
山鹿素行「中朝事実」を読む
荒井桂(現代語訳)
日本の思想史を激震させた山鹿素行の幻の名著
『中朝事実』は吉田松陰をはじめとする維新の志士に影響を与えた書物であり、乃木希典大将が座右の書としたことでも有名だった。
その『中朝事実』を著した山鹿素行は江戸初期の儒学者だった。
当時、支那は自らを世界の中央に位置する文化国家であるとして「中華」と自称していた。
それに対して素行は、日本こそ文化的にも政治的にも中華と呼ばれる存在であるとした。
そうして書かれた『中朝事実』は『日本書紀』などの原文を引き、それに対して素行が論評を加えるという体裁になっている。
五百㌻を越す大冊だが、その格調高い文章は日本を思う素行の意気が伝わるようだ。
安岡正篤師に私淑する著者は、日本の歴史を正しく知ることで、新たな日本の活路を見出してもらえればと膨大で難解な書物をものにした。
激動の国際情勢の中で、国の在り方や国民の意識に思いを致す時、本書を紐解くことは極めて意義深い。