家族には話していないが、私は魔法少女だ。小学校に入った年に駅前のスーパーでピュートと出会った。ピュートはぬいぐるみ売り場の端っこで捨てられそうになっていたのを、私がお年玉で買ってあげた。家に連れて帰ると、ピュートは私に魔法少女になってほしいといい、変身道具を渡してくれた。ポハピピンポボピア星からやってきたピュートは、地球に危機が訪れていることを察知し、その星の魔法警察の任務をうけて地球にやってきたのだ。それ以来、私は魔法少女として地球を守っている。
家族には話していないが、私は魔法少女だ。小学校に入った年に駅前のスーパーでピュートと出会った。ピュートはぬいぐるみ売り場の端っこで捨てられそうになっていたのを、私がお年玉で買ってあげた。家に連れて帰ると、ピュートは私に魔法少女になってほしいといい、変身道具を渡してくれた。ポハピピンポボピア星からやってきたピュートは、地球に危機が訪れていることを察知し、その星の魔法警察の任務をうけて地球にやってきたのだ。それ以来、私は魔法少女として地球を守っている。
地球星人
by 村田沙耶香
私はいつまで生き延びればいいのだろう。いつか、生き延びなくても生きていられるようになるのだろうか。地球では、若い女は恋愛をしてセックスをするべきで、恋ができない人間は、恋に近い行為をやらされるシステムになっている。地球星人が、繁殖するためにこの仕組みを作りあげたのだろう―。
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「由宇にしてはいいことを教えてくれたから、お礼に私も秘密を教えてあげる」
と言った。
「秘密ってなに?」
「あのね、私は本当は魔法少女なの。コンパクトで変身して、ステッキで魔法が使えるの」
「どんな魔法?」
「いろいろ! 一番かっこいいのは、敵を倒す魔法」
「敵って?」
「あのね、普通の人には見えないかもしれないけど、この世界にはたくさんの敵がいるの。悪い魔女とか、バケモノとか。私はいつもそれをやっつけて、地球を守ってるの」
私は肌身離さず持っている小さなポシェットから、ピュートを出してみせた。ピュートは見た目は真っ白なハリネズミのぬいぐるみだけれど、本当はポハピピンポボピア星の魔法警察からやってきた使者だ。私はピュートからステッキとコンパクトをもらって魔法使いになった。そう説明すると、由宇は真剣な表情で、
「奈月ちゃん、すごいね……! 奈月ちゃんが地球を守ってくれているおかげで、僕たちは平和に暮らせてるんだね」
と言ってくれた。
「そうだよ」
「……ねえ、その、ポハピピンポボピア星ってどんなところ?」
「それはよくわからない。しゅひぎむ、があるってピュートが言ってたから」
「そうなんだ……」
魔法より異星に興味を示した由宇が不思議で、私は顔をのぞきこんだ。
「どうしたの?」
「ううん。……僕も奈月ちゃんだけに言うね。僕、もしかしたら宇宙人かもしれないんだ」
「えっ!?」
私は仰天したが、由宇は真剣な表情で続けた。
「美津子さんがよく言うんだ。あんたは宇宙人だって。秋級の山で、宇宙船から捨てられてたのを拾ってきたって」
「そうなんだ……」
美津子さんというのは、由宇のお母さんだ。私は父の妹であり私のおばさんであるきれいな人を思い浮かべた。由宇に似て内気で大人しいおばさんが、嘘や冗談を言うようには思えない。
「それにね、引き出しの中に、拾った覚えのない石があるんだ。石なのに真っ黒で、平べったくて、つるつるして、見たことがない形なんだ。だから、それは僕の故郷の石なんじゃないかって思ってるんだ」
**
私たちは手をとりあい、肩を寄せ合って、地球星人の住む星へと、ゆっくりと踏み出した。光に包まれた私たちに呼応するように、地球星人たちの鳴き声が、この星の遠くまで響き渡り、森を揺さぶりながら広がっていった。
(sk)
。。。