『あやとりの記』も『水はみどろの宮』も、『椿と海の記』だって半分までは、夢でできている。
しかし、水俣は彼女にうつつを見させた。これが現実の人間のありよう、この地獄を作ったのが人間。それをせめて煉獄に変え、救いの道を付けなければならない。そういう声に応じて、四十年に亘ってその声の命じるままに力を込めて書き続け、『苦海浄土』ができた。あの大作では、うつつに踏みとどまらなければという意思と夢の方に行ってしまいたいという誘惑の力が拮抗している。
『あやとりの記』も『水はみどろの宮』も、『椿と海の記』だって半分までは、夢でできている。
しかし、水俣は彼女にうつつを見させた。これが現実の人間のありよう、この地獄を作ったのが人間。それをせめて煉獄に変え、救いの道を付けなければならない。そういう声に応じて、四十年に亘ってその声の命じるままに力を込めて書き続け、『苦海浄土』ができた。あの大作では、うつつに踏みとどまらなければという意思と夢の方に行ってしまいたいという誘惑の力が拮抗している。
『アルテリ』6号(石牟礼道子追悼号)
アルテリ編集室.
責任編集:田尻久子
池澤夏樹「夢とうつつを見る人」(pp.85-91)
うつつ【現】
(夢・幻・霊魂に対して)現実。目がさめていること。
「夢かうつつか」
うつつ 【現】名詞
①現実。現世。実在。
出典新古今集 羇旅・伊勢物語九
「駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人に逢はぬなりけり」
②正気。
出典源氏物語 葵
「うつつにも似ず、たけく厳きひたぶる心出で来て」
[訳] (六条の御息所には)正気とは思えない、荒々しく激しいいちずな心が出てきて。
③夢心地。正気を失った状態。▽「夢うつつ」と続けて言うところからの誤用。
出典太平記 二五
「皆入興して、うつつのごとくなりにけり」
[訳] みんな興に乗って、夢心地のようになってしまった。