shinichi Post author15/01/2020 at 10:09 pm 評伝 石牟礼道子―渚に立つひと― by 米本浩二 「この世に悲しみを持つ程に、人は美しくなるとか申します」 黙って読んでいた道子が途中から声を出して読み始めた。私は息をするのも忘れて聴き入った。 「ああ人間はこの世で一体幾辺、望みを絶つのを繰り返すのでございましよう。限りない絶望の果て、一つを捨てる為に人間は美しくなると申します。その度に悲しみが何とはなしに絹糸の様に、その細い故に切れることなく続き、その絹糸が何時しかに一つの調べを持ち、その調べを孤独の底で奏でる時に、人間は、美しいものへ近づくのかも知れません」 Reply ↓
不知火おとめ
by 石牟礼道子
評伝 石牟礼道子―渚に立つひと―
by 米本浩二
「この世に悲しみを持つ程に、人は美しくなるとか申します」
黙って読んでいた道子が途中から声を出して読み始めた。私は息をするのも忘れて聴き入った。
「ああ人間はこの世で一体幾辺、望みを絶つのを繰り返すのでございましよう。限りない絶望の果て、一つを捨てる為に人間は美しくなると申します。その度に悲しみが何とはなしに絹糸の様に、その細い故に切れることなく続き、その絹糸が何時しかに一つの調べを持ち、その調べを孤独の底で奏でる時に、人間は、美しいものへ近づくのかも知れません」