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和泉式部, 藤原定家, 渡部泰明

黒髪のみだれもしらずうち臥ふせば まづかきやりし人ぞ恋しき
和泉式部 後拾遺集・恋三・七五五
黒髪の乱れるのもかまわず倒れ臥すと
こんな時髪をかき上げてくれたあの人がまずなにより恋しい

かきやりしその黒髪のすぢごとに うち臥ふすほどは面影ぞ立つ
藤原定家 新古今集・恋五・一三九〇
かき上げてやった彼女の黒髪の美しい髪筋までも
独り臥していると鮮明に面影が浮かぶ

渡部泰明

恋と恋愛は、同じではありません。恋愛は、男女二人がいれば、それで完結します。一人ではできないものですし、また二人以外の邪魔者は、いないほうがいい。けれども恋は、もっと大きな世界をもっています。逆に一人でも恋せるのです。今でいう「片思い」ですね。それは、歌の恋の重要なテーマです。というより、和歌の中の恋は、いつでも片思いです。「恋ふ」は「乞ふ」ものです。全身で求め、願うものです。仮に両思いであったとしても、自分の恋しさのほうがずっと深い。それゆえ必ず片思いなのです。

社会はいつでも恋に対立します。恋する人間にとって、障害であり、敵です。社会というと堅苦しいですが、歌の言葉でいえば、「世」であり「世の中」です。恋の歌には「世」「世の中」が繰り返し詠まれます。恋しい相手だって、現実に囚われていて、恋に逃げ腰であれば、もう社会の一部でさえあるのです。障害としての社会にぶつかりながら、「恋ふ」気持ちを抱きしめている。それが「恋」の核心です。社会という制約の中で、自分の真情を大事にすること。そう考えれば、これは人が生きるあらゆる局面にかかわってくることがわかるでしょう。だからこそ恋は、公的な一大テーマとなったのです。

黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき  和泉式部
かきやりしその黒髪の筋ごとにうち臥すほどは面影ぞ立つ  藤原定家

佐佐木信綱

白蓮は藤原氏の女なり。「王政ふたたびかへりて十八」の秋ひむがしの都に生れ、今は遠く筑紫の果にあり。「緋房の籠の美しき鳥」に似たる宿世にとらはれつつ、「朝化粧五月となれば」京紅の青き光をなつかしむ身の、思ひ余りては、「あやまちになりし躯」の呼吸する日日のろはしく、わが魂をかへさむかたやいづこと、「星のまたたき寂しき夜」に神をもしのびつ。或は、観世音寺の暗きみあかしのもとに「普門品よむ声」にぬかずき、或は、「四国めぐりの船」のもてくる言伝に悲しぶ。半生漸く過ぎてかへりみる一生の「白き道」に咲き出でし心の花、花としいはばなほあだにぞすぎむ。げにやこの踏絵一巻は、作者が「魂の緒の精をうけ」てなれりしものなり。而して、「試めさるる日の来しごと」くに火の前にたてりとは、この一巻をいだける作者のこころなり。――さはれ、その夢と悩みと憂愁と沈思とのこもりてなりしこの三百余首を貫ける、深刻にかつ沈痛なる歌風の個性にいたりては、まさしく作者の独創といふべく、この点において、作者はまたく明治大正の女歌人にして、またあくまでも白蓮その人なり。ここにおいてか、紫のゆかりふかき身をもて西の国にあなる藤原氏の一女を、わが『踏絵』の作者白蓮として見ることは、われらの喜びとするところなり。

千原こはぎ

真っ白なショートケーキのどのへんを崩せば好きになってくれますか

ともだちであると確認した夜にうっかりキスを一度だけした

横井也有

  • しわがよるほくろができる背がかがむあたまがはげる毛が白くなる
  • 手はふるう足はよろつく歯はぬける耳は聞こえず目はうとくなる
  • またしても同じ話に孫自慢達者自慢に古きしゃれいう
  • くどくなる気短かになるぐちになる思いつくことみな古くなる
  • 身にそうは頭巾えり巻きつえめがね湯婆温石にしびんまごの手
  • 聞きたがる死にともながるさびしがるでしゃばりたがる世話やきたがる

Edna St. Vincent Millay

I, being born a woman and distressed
By all the needs and notions of my kind,
Am urged by your propinquity to find
Your person fair, and feel a certain zest
To bear your body’s weight upon my breast:
So subtly is the fume of life designed,
To clarify the pulse and cloud the mind,
And leave me once again undone, possessed.
Think not for this, however, the poor treason
Of my stout blood against my staggering brain,
I shall remember you with love, or season
My scorn with pity, —let me make it plain:
I find this frenzy insufficient reason
For conversation when we meet again.

寺山修司

ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかって
完全な死体となるのである
そのときには
できるだけ新しい靴下をはいていることにしよう
零を発見した
古代インドのことでも思いうかべて

「完全な」ものなど存在しないのさ

寺山修司

昭和十年十二月十日に
ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかゝって
完全な死体となるのである
そのときが来たら
ぼくは思いあたるだろう
青森市浦町字橋本の
小さな陽あたりのいゝ家の庭で
外に向って育ちすぎた桜の木が
内部から成長をはじめるときが来たことを

子供の頃、ぼくは
汽車の口真似が上手かった
ぼくは
世界の涯てが
自分自身のなかにしかないことを
知っていたのだ

三角みづ紀

とりいそぎの水と
ジュースと野菜を
赤いかごにいれて
レジに並んでいたら
彼はあわてて その場をはなれて
一束のチューリップを持ってくる
わかりやすいピンクの
まだつぼみのそれらは
計量カップに飾られて
咲くのを 待っている

與謝野晶子, 平野萬里

十二年の春四月の末つ方大磯でかりそめの病に伏した時の作の一つ。病まぬ日は昔を偲ぶをこととしたが、今病んでは事毎にまだ痛まなかつた昨日の事が思はれて心が動揺する。ましてそれは心の動き易い行く春のこととてなほさらである。この時の歌はさすがに少し味が違つて心細さもにじんでゐるが同時に親しみ懐しみも常より多く感ぜられる。二三を拾ふと いづくへか帰る日近き心地してこの世のものの懐しき頃 大磯の高麗桜皆散りはてし四月の末に来て籠るかな 小ゆるぎの磯平らかに波白く広がるをなほ我生きて見る もろともに四日ほどありし我が友の帰る夕の水薬の味 等があげられる。

北川悦吏子

僕は遅いかもしれない。だけど走ろうと思う。
僕は寂しがりやかもしれない。だけど隠そうと思う。
僕は負けるかもしれない。だけど闘おうと思う。
僕は愛されないかもしれない。だけど愛そうと思う。
僕は弱虫かもしれない。だけど強くなろうと思う。
僕は君が望むような僕じゃないかもしれない。
でも、だけど…君の心の灯が消えそうなときは、そっと手をかざそう。
いつまでもかざそう。

吉野弘

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

田口久人

女性にとって会話は心のやりとりだが
男性にとって会話は情報のやりとり
女性は考えがまとまらないから話し
男性は考えがまとまったら話す
女性はすべて聞きたいと思うが
男性はすべて話す必要はないと思う
女性は悩みを聞いて欲しいだけなのに
男性は悩みを解決しようとする
女性は言わなくてもわかって欲しいのに
男性は何も言われなければ大丈夫だと思う
だからいつまでも男女はすれ違う

吉野弘

母は
舟の一族だろうか。
こころもち傾いているのは
どんな荷物を
積みすぎているせいか。

幸いの中の人知れぬ辛さ
そして時に
辛さを忘れている幸い。
何が満たされて幸いになり
何が足らなくて辛いのか。

舞という字は
無に似ている。
舞の織りなすくさぐさの仮象
刻々 無のなかに流れ去り
しかし 幻を置いてゆく。

――かさねて
舞という字は
無に似ている。
舞の姿の多様な変幻
その内側に保たれる軽やかな無心
舞と同じ動きの。

器の中の
哭。
割れる器の嘆声か
人という字の器のもろさを
哭く声か。

Francis Jammes

Lorsque je serai mort, toi qui as des yeux bleus
couleur de ces petits coléoptères bleu de feu
des eaux, petite jeune fille que j’ai bien aimée
et qui as l’air d’un iris dans les fleurs animées,
tu viendras me prendre doucement par la main.
Tu me mèneras sur ce petit chemin.
Tu ne seras pas nue, mais, ô ma rose,
ton col chaste fleurira dans ton corsage mauve.
Nous ne nous baiserons même pas au front.
Mais, la main dans la main, le long des fraîches ronces
où la grise araignée file des arcs-en-ciel,
nous ferons un silence aussi doux que du miel ;
et, par moment, quand tu me sentiras plus triste,
tu presseras plus fort sur ma main ta main fine
– et, tous les deux, émus comme des lilas sous l’orage,
nous ne comprendrons pas… nous ne comprendrons pas…

寺山修司

かなしくなったときは
海を見にゆく

古本屋のかえりも
海を見にゆく

あなたが病気なら
海を見にゆく

こころ貧しい朝も
海を見にゆく

ああ 海よ
大きな肩とひろい胸よ

どんなつらい朝も
どんなむごい夜も
いつかは終る

人生はいつか終るが
海だけは終らないのだ

かなしくなったときは
海を見にゆく

一人ぼっちの夜も
海を見にゆく

Alberto Caeiro (Fernando Pessoa)

I don’t bother with rhyme. Rarely
Are two trees the same, one beside the other.
I think and write like flowers have color
But with less perfection in my way of expressing myself
Because I lack the divine simplicity
Of wholly being only my exterior.

I see and I’m moved,
Moved the way water runs when the ground is sloping
And what I write is as natural as the rising wind…

Alberto Caeiro (Fernando Pessoa)

I saw that there is no Nature,
That Nature doesn’t exist,
That there are hills, valleys, plains,
That there are trees, flowers, weeds,
That there are rivers and stones,
But there is not a whole these belong to,
That a real and true wholeness
Is a sickness of our ideas.

Nature is parts without a whole.

Alberto Caeiro (Fernando Pessoa)

What we see of things is things.
Why would we see one thing as being another?
Why is it that seeing and hearing would deceive us
If seeing and hearing are seeing and hearing?

The main thing is knowing how to see,
To know how to see without thinking,
To know how to see when you see,
And not think when you see
Or see when you think.

But this (poor us carrying a clothed soul!),
This takes deep study,
A learning to unlearn
And sequestration in freedom from that convent
Where the poets say the stars are the eternal brothers,
And flowers are penitent nuns who only live a day,
But where stars really aren’t anything but stars,
And flowers aren’t anything but flowers,
That being why I call them stars and flowers.

Fernando Pessoa

My gaze is clear as a sunflower.
It is my habit to walk along the roads
Looking right and left,
And from time to time looking back…
And what I see at any moment
Is something that I have never seen before,
And I can notice very well…
I can know the essential wonder
A child knows if at birth
It noticed it was actually being born…
I feel myself born at any moment
To the eternal newness of the World…
I believe in the world like a marigold,
Because I see it. But I don’t think about it
Because to think is to not understand…
The world was not made for us to think about it
(To think is to have pain in the eyes)
But for us to look at it and agree…
I have no philosophy: I have feelings…
If I speak of Nature it is not because I know what it is,
But because I love it, and this why:
Whoever loves knows what he loves
Nor why he loves, or what it is to love…
To love is eternal innocence,
And the only innocence is not to think…

Fernando Pessoa

Come sit by my side Lydia, on the bank of the river.
Calmly let us watch it flowing and learn
That life is passing, and we are not holding hands.
          (Let us hold hands.)

Let us stop holding hands, for it is not worth tiring ourselves.
Whether we enjoy or not, we pass with the river.
Better to know how to pass silently
          And without great disquiet.

Let us love calmly, thinking that we could,
If we would, exchange kisses and embraces and caresses,
But that it is better to sit beside each other
          Hearing the river flow and seeing it.

忌野清志郎

今までして来た悪い事だけで
僕が明日有名になっても
どうって事ないぜ まるで気にしない
君が僕を知ってる

宇治拾遺物語

今は昔、大隈守なる人、国の政をしたため行ひ給ふ間、郡司のしどけなかりければ、
「召しにやりて戒めむ。」
と言ひて、さきざきのやうに、しどけなきことありけるには、罪に任せて、重く軽く戒むることありければ、一度にあらず、たびたびしどけなきことあれば、重く戒めむとて、召すなりけり。
「ここに召して、率て参りたり。」
と、人の申しければ、さきざきするやうにし伏せて、尻、頭にのぼりゐたる人、しもとをまうけて、打つべき人まうけて、さきに人二人引き張りて、出で来たるを見れば、頭は黒髪も交じらず、いと白く、年老いたり。
見るに、打ぜむこといとほしくおぼえければ、何事につけてかこれを許さむと思ふに、事つくべきことなし。過ちどもを片端より問ふに、ただ老ひを高家にていらへをる。いかにしてこれを許さむと思ひて、
「おのれはいみじき盗人かな。歌は詠みてむや。」
と言へば、
「はかばかしからずさぶらへども、詠みさぶらひなむ。」
と申しければ、
「さらばつかまつれ。」
と言はれて、ほどもなく、わななき声にてうち出だす。

年を経て頭の雪は積もれどもしもと見るにぞ身は冷えにける

と言ひければ、いみじうあはれがりて、感じて許しけり。人はいかにも情けはあるべし。

金子みすゞ

このうらまちの
ぬかるみに、
青いお空が
ありました。

とおく、とおく、
うつくしく、
すんだお空が
ありました。

このうらまちの
ぬかるみは、
深いお空で
ありました。

若松英輔

詩はこの世界に深みのあることを教えてくれます。彼方の世界に触れたとき、それはこころの奥に眠る古い記憶を呼び覚まし、懐かしさと深い哀愁を感じさせます。詩とは、過ぎ去るものを言葉という舟で永遠の世界へ運ぼうとすることだ、といえるかもしれません。

Emily Dickinson

There is a solitude of space
A solitude of sea
A solitude of death, but these
Society shall be
Compared with that profounder site
That polar privacy
A soul admitted to itself —
Finite Infinity.

足利義政

くやしくぞ過ぎしうき世を今日ぞ思ふ心くまなき月をながめて

板間もる月こそ夜の主なれ荒れにしままの露のふるさと

柿本人麻呂

雷神 小動 刺雲 雨零耶 君将留
(鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ)
     

雷神 小動 雖不零 吾将留 妹留者
(鳴る神の 少し響みて 降らずとも 吾は留まらむ 妹し留めば)

Hornet La Frappe

Tu veux mon bien ? Y’a pas de souçay, j’veux pas mon bien, trop souvent sous sky
J’ai fait du mal à petit cœur fragile, je suis très calme mais quand j’parle j’agis
Enfermé tu penses à ta sortie, fuck la gamelle, cuisine des tajines
Toute la cité, derrière ma carrière, faut pas que je me loupe, pas de marche arrière
Pas besoin de marabout pour voir les bâtards qui veulent me mettre que des barrières
On s’sert les coudes, personne inquiété, je vais niquer un rappeur pour finir en TT
Gramme de peu-fra dans ton néné, comme Ninho je vais te faire danser nae nae
J’veux être légendaire, pas finir au ballon

秋田ひろむ

どっかで諦めていて 無表情に生きている
あまりに空っぽすぎて 途方に暮れちまうな
彼女が帰って来るまでに 言い訳を急いで思案する
何やってんだってしらけて どうでもいいやって居直る
そうだこの感じ 今まで何度もあった
大事なところで僕は 何度も逃げ出したんだ

秋田ひろむ

僕が死のうと思ったのは 心が空っぽになったから
満たされないと泣いているのは きっと満たされたいと願うから
僕が死のうと思ったのは 冷たい人と言われたから
愛されたいと泣いているのは 人の温もりを知ってしまったから
僕が死のうと思ったのは あなたが綺麗に笑うから
死ぬことばかり考えてしまうのは きっと生きる事に真面目すぎるから
僕が死のうと思ったのは まだあなたに出会ってなかったから
あなたのような人が生まれた 世界を少し好きになったよ
あなたのような人が生きてる 世界に少し期待するよ

奄美民謡

他の島の人と縁 結んじゃいけないよ
他の島の人と縁 結んでしまえば
落とすはずのない涙 落とすことになるよ

和泉式部

つれづれと空ぞ見らるる思ふ人あまくだりこむものならなくに

あらざらむこの世のほかの思ひいでに今ひとたびの逢ふこともがな

小野小町

恋ひわびぬしばしも寝ばや夢のうちに見ゆれば逢ひぬ見ねば忘れぬ

思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを

Satomi

ひさしぶりに生まれた
心の奥の方で
静かにそっと燃える
この気持ちはきっと
片想い

Satomi

言ノ葉は月のしずくの恋文 哀しみは泡沫の夢幻
匂艶は愛をささやく吐息 戦災う声は蝉時雨の風
時間の果てで冷めゆく愛の温度 過ぎし儚き思い出を照らしてゆく
「逢いたい…」と思う気持ちは そっと今、願いになる 
哀しみを月のしずくが今日もまた濡らしてゆく
下弦の月が浮かぶ 鏡のような水面
世に咲き誇った万葉の花は移りにけりな 哀しみで人の心を染めゆく
「恋しい…」と詠む言ノ葉は そっと 今、天つ彼方
哀しみを月のしずくが今日もまた濡らしてゆく
「逢いたい…」と思う気持ちは そっと今、願いになる
哀しみを月のしずくが今日もまた濡らしてゆく
下弦の月が謡う 永遠に続く愛を…

萩原朔太郎

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。

足利義政

憂き世ぞとなべて云へども治めえぬ我が身ひとつに猶嘆くかな

置きまよふ野原の露にみだれあひて尾花が袖も萩が花摺り

わが庵は月待山のふもとにてかたむく月のかげをしぞ思ふ

見し花の色を残して白妙の衣うつなり夕がほのやど

さやかなる影はそのよの形見かはよしただくもれ袖の上の月

今日はまた咲き残りけり古里のあすか盛りの秋萩の花

わが思ひ神さぶるまでつつみこしそのかひなくて老いにけるかな

今日はまづ思ふばかりの色みせて心の奧をいひはつくさじ

春来ぬとふりさけみれば天の原あかねさし出づる光かすめり

こぎわかれゆけばかなしき志賀の浦やわが古郷にあらぬ都も

つらきかな曽我の河原にかるかやの束の間もなく思ひみだれて

藤原実方, 足利義政

かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆるおもひを 
(藤原実方)

かくとだに まづゐゝよらん 傳もがな こゝろの底に むせぶおもひを 
(足利義政)

おもひのみ ますだの池の つゝみかね こゝろの水ぞ 袖にながるゝ
(足利義政)

石牟礼道子

 
   花を奉る

石牟礼道子         

春風萌すといえども われら人類の劫塵いまや累なりて
三界いわん方なく昏し
まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに なにに誘わるるにや 虚空はるかに 一連の花 まさに咲かんとするを聴く ひとひらの花弁 彼方に身じろぐを まぼろしの如くに視れば 常世なる仄明かりを 花その懐に抱けり
常世の仄明かりとは あかつきの蓮沼にゆるる蕾のごとくして 世々の悲願をあらわせり かの一輪を拝受して 寄る辺なき今日の魂に奉らんとす
花や何 ひとそれぞれの 涙のしずくに洗われて咲きいずるなり
花やまた何 亡き人を偲ぶよすがを探さんとするに 声に出せぬ胸底の想いあり そをとりて花となし み灯りにせんとや願う
灯らんとして消ゆる言の葉といえども いずれ冥途の風の中にて おのおのひとりゆくときの 花あかりなるを この世のえにしといい 無縁ともいう
その境界にありて ただ夢のごとくなるも 花
かえりみれば まなうらにあるものたちの御形 かりそめの姿なれども おろそかならず
ゆえにわれら この空しきを礼拝す
然して空しとは云わず 現世はいよいよ地獄とやいわん
虚無とやいわん
ただ滅亡の世せまるを待つのみか ここにおいて われらなお 地上にひらく 一輪の花の力を念じて合掌す

大高ひさお

涙じゃないのよ 浮気な雨に
ちょっぴりこの頬 濡らしただけさ
ここは地の果て アルジェリア
どうせカスバの 夜に咲く
酒場の女の うす情け
あなたも私も 買われた命
恋してみたとて 一夜の火花
明日はチュニスか モロッコか
泣いて手をふる うしろ影
外人部隊の 白い服

中島みゆき

何かの足しにもなれずに生きて
何にもなれずに消えて行く
僕がいることを喜ぶ人が
どこかにいてほしい
石よ樹よ水よ ささやかな者たちよ
僕と生きてくれ

たやすく涙を流せるならば
たやすく痛みもわかるだろう
けれども人には
笑顔のままで泣いてる時もある
石よ樹よ水よ 僕よりも
誰も傷つけぬ者たちよ

Sam Levenson

For attractive lips, speak words of kindness.
For lovely eyes, seek out the good in people.
For a slim figure, share your food with the hungry.
For beautiful hair, let a child run his fingers through it once a day.
For poise, walk with the knowledge you’ll never walk alone.

堀口大学

そして今、こころに生きる
ふる里越は北国・・・。

北国の弥生は四月、そして今
四月になって、梅桜桃李
あとさきのけじめもなしに
時を得て、咲きかおり・・・。

そして今、遠山まみに霞たち
蒲原の広野の果ての国つ神
弥彦山、むらさき裾濃
神さびまして鎮もれば・・・。

そして今、信濃川
雪解水集めて百里
嵩まさり
西ひがし岸べをひたし
滔々と濁水はこぶ
逆巻いて

そして今、こころに生きる
ふる里の越の四月・・・。

式子内親王

たのむかなまだ見ぬ人の思ひ寝のほのかに慣るる宵々の夢

忘れてはうち嘆かるる夕べかな我のみ知りて過ぐる月日を

あはれとも言はざらめやと思ひつつ我のみ知りし世を恋ふるかな

しるべせよ跡なき波に漕ぐ舟のゆくへも知らぬ八重の潮風

夢にても見ゆらむものを嘆きつつうちぬる宵の袖のけしきは

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする

Langston Hughes

The instructor said,

Go home and write
a page tonight.
And let that page come out of you—
Then, it will be true.

I wonder if it’s that simple?
I am twenty-two, colored, born in Winston-Salem.
I went to school there, then Durham, then here
to this college on the hill above Harlem.
I am the only colored student in my class.
**
It’s not easy to know what is true for you or me
at twenty-two, my age. But I guess I’m what
I feel and see and hear, Harlem, I hear you:
hear you, hear me—we two—you, me, talk on this page.
(I hear New York, too.) Me—who?
Well, I like to eat, sleep, drink, and be in love.
I like to work, read, learn, and understand life.

Freddie Mercury

I was born to love you with every single beat of my heart Yes, I was born to take care of you, every single day I was born to love you with every single beat of my heart Yes, I was born to take care of you every single day of my life You are the one for me, I am the man for you You were made for me, you’re my ecstasy If I was given every opportunity I’d kill for your love So take a chance with me, let me romance with you I’m caught in a dream and my dream’s come true So hard to believe this is happening to me An amazing feeling coming through I was born to love you with every single beat of my heart Yes, I was born to take care of you, honey Every single day of my life I wanna love you – I love every little thing about you I wanna love you, love you, love you Born, to love you, born, to love you Yes I was born to love you Born, to love you, born, to love you Every single day – day of my life – woh An amazing feeling coming through I was born to love you with every single beat of my heart Yeah, I was born to take care of you every single day of my life Yeah I was born to love you every single day of my life Go, woh, I love you babe, hey – born to love you Yes, I was born to love you hey I wanna love you, love you, love you I wanna love you – yeah yeah Ha ha ha ha ha it’s magic – what ha ha ha I get so lonely, lonely, lonely, lonely, yeah I want to love you, it’s magic love you, love you, yeah, give it to me

Michael Wood

I have seen it over and over, the same sea, the same,
slightly, indifferently swinging above the stones,
icily free above the stones,
above the stones and then the world.

If you should dip your hand in,
your wrist would ache immediately,
your bones would begin to ache and your hand would burn
as if the water were a transmutation of fire
that feeds on stones and burns with a dark gray flame.
If you tasted it, it would first taste bitter,
then briny, then surely burn your tongue.
It is like what we imagine knowledge to be:

dark, salt, clear, moving, utterly free,
drawn from the cold hard mouth
of the world, derived from the rocky breasts
forever, flowing and drawn, and since
our knowledge is historical, flowing, and flown.

石牟礼道子

崖の下に 野ざらしになっていた
これはなつかしい
わたくしさまの
しゃれこうべ
ふたつのまなこの 穴ぼこと
口のしるしの 穴ぼこと
Under the cliff, weatherbeaten
is my
dear long-lost
skull
with two holes for eyes
and evidence of a hole for the mouth
花が天から
音のミキサァにかかって
幽かに 匂います
Flowers in the air
among the sound of mixers
give off a faint fragrance
空にはジドウシャの音がいっぱい
ブルドーザァの音がいっぱい
鉄の爪で吊りあげる匂いが
胸苦しい
無数の首たちの
いまわの声は
聞きとれなかった
首たちも爆発してしまったから
The sky is filled with the sound of cars
and the sound of bulldozers
The smell of suspended iron claws
suffocate me
I couldn’t catch the last remaining voice
of the countless heads
Because the heads were blown to smithereens
聞こえない風の中を
赤んぼたちの ほぞの緒が
ゆらゆら降りてくる
The bellybutton ties of babies
flutter in the indecipherable wind
天が下の 大静寂
迦陵頻伽の喉が からから です
なにか飲みものは ないかしら
ありました ありました
見えました
わたしの まなこの 穴ぼこの
そのまた向こう
ほらあの トンネル掘りの
土竜が 頭に立って
働いています あのオケラたちとか
Dead silence under the heavens
The Kalavinka bird’s throat is parched
Isn’t there something to drink?
There they are There they are
I see them
Beyond my empty eye sockets
There
The tunnel-digging mole at the head
works away And the mole crickets
掌の上に乗せれば
魚のヒレに似た四つの手足を動かして
自分を花車に仕立てながら
泥の向こうの彼岸まで曳いてゆく
バッタに似たのだとか
If you put them in your palm
they move their four arms and legs like fish fins
and like festival floats
pull themselves to the shore beyond the mud
They look like grasshoppers
手足のない めめんちょろだとか
みんなでせっせと耕している野原が
ずいぶん広がって
The field that
those legless worms have planted
grows vast
小さな泉のほとりでは
むらさきいろの 露草も
露を含んで
明ける朝
Near the small spring
purple spiderwort flowers grow
and fill with dew
at dawn
極楽よりも 地獄の安らぎを
うたうようになった
迦陵頻伽の喉も これで
うるおう ことでしょう
The throat of the Kalavinka bird
who sings more of tranquility
for hell than heaven
will be moistened

Евгений Евтушенко

Людей неинтересных в мире нет.
Их судьбы—как истории планет.
У каждой всё особое, свое,
и нет планет, похожих на нее.

А если кто-то незаметно жил
и с этой незаметностью дружил,
он интересен был среди людей
самой неинтерестностью своей.

У каждого—свой тайный личный мир.
Есть в мире этом самый лучший миг.
Есть в мире этом самый страшный час,
но это всё неведомо для нас.

И если умирает человек,
с ним умирает первый его снег,
и первый поцелуй, и первый бой…
Всё это забирает он с собой.

Да, остаются книги и мосты,
машины и художников холсты,
да, многому остаться суждено,
но что-то ведь уходит всё равно.

Таков закон безжалостной игры.
Не люди умирают, а миры.
Людей мы помним, грешных и земных.
А что мы знали, в сущности, о них?

Что знаем мы про братьев, про друзей,
что знаем о единственной своей?
И про отца родного своего
мы, зная всё, не знаем ничего.

Уходят люди… Их не возвратить.
Их тайные миры не возродить.
И каждый раз мне хочется опять
от этой невозвратности кричать.

寺山修司

地球儀を見ながら私は「偉大な思想などにはならなくともいいから、偉大な質問になりたい」と思っていたのである。

人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ

茨木のり子

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

湯浅ちひろ

世界は私とそれ以外でできている
皮膚
私とそれ以外の境界線であった
内側にあるはずの精神は外側に逃げていった
勝手に迷い込んだ
身体と脳
ハードウェアとソフトウェア
あるものとないもの
あるはずのものはなかった
ないはずのものがある
取り除いてみたら、それ以外が残った
宇宙の作り方
ダークマターとそれ以外
私が死んだら世界が死んだ
それでも、世界は私とそれ以外でできていた

Khalīl Gibrān

Love one another, but make not a bond of love:
Let it rather be a moving sea between the shores of your souls.
Fill each other’s cup but drink not from one cup.
Give one another of your bread but eat not from the same loaf
Sing and dance together and be joyous, but let each one of you be alone,
Even as the strings of a lute are alone though they quiver with the same music.
Give your hearts, but not into each other’s keeping.
For only the hand of Life can contain your hearts.
And stand together yet not too near together:
For the pillars of the temple stand apart,
And the oak tree and the cypress grow not in each other’s shadow.

吉野弘

生命は 自分自身だけでは完結できないように つくられているらしい
花も めしべとおしべが揃っているだけでは 不充分で
虫や風が訪れて めしべとおしべを仲立ちする
生命は その中に欠如を抱き それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分 他者の総和
しかし 互いに 欠如を満たすなどとは 知りもせず 知らされもせず
ばらまかれている者同士 無関心でいられる間柄
ときに うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように 世界がゆるやかに構成されているのは なぜ?

花が咲いている すぐ近くまで 虻の姿をした他者が 光をまとって飛んできている
私も あるとき 誰かのための虻だったろう
あなたも あるとき 私のための風だったかもしれない

Paul Eluard

Sur mes cahiers d’écolier
Sur mon pupitre et les arbres
Sur le sable de neige
J’écris ton nom

Et par le pouvoir d’un mot
Je recommence ma vie
Je suis né pour te connaître
Pour te nommer

Charles Baudelaire

A une passante
 
La rue assourdissante autour de moi hurlait.
Longue, mince, en grand deuil, douleur majestueuse,
Une femme passa, d’une main fastueuse
Soulevant, balançant le feston et l’ourlet ;
 
Agile et noble, avec sa jambe de statue.
Moi, je buvais, crispé comme un extravagant,
Dans son oeil, ciel livide où germe l’ouragan,
La douceur qui fascine et le plaisir qui tue.
 
Un éclair… puis la nuit ! – Fugitive beauté
Dont le regard m’a fait soudainement renaître,
Ne te verrai-je plus que dans l’éternité ?
 
Ailleurs, bien loin d’ici ! trop tard ! jamais peut-être !
Car j’ignore où tu fuis, tu ne sais où je vais,
Ô toi que j’eusse aimée, ô toi qui le savais !

茨木のり子

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

William Blake

In seed time learn, in harvest teach, in winter enjoy.
Drive your cart and your plow over the bones of the dead.
The road of excess leads to the palace of wisdom.
Prudence is a rich ugly old maid courted by Incapacity.
He who desires but acts not, breeds pestilence.
The cut worm forgives the plow.
Dip him in the river who loves water.
A fool sees not the same tree that a wise man sees.
He whose face gives no light, shall never become a star.
Eternity is in love with the productions of time.
The busy bee has no time for sorrow.
The hours of folly are measur’d by the clock, but of wis­dom: no clock can measure.
All wholsom food is caught without a net or a trap.
Bring out number weight & measure in a year of dearth.
No bird soars too high, if he soars with his own wings.
A dead body, revenges not injuries.
The most sublime act is to set another before you.
If the fool would persist in his folly he would become wise.
Folly is the cloke of knavery.
Shame is Prides cloke.

Nancy Wood

Today is a very good day to die.
Every living thing is in harmony with me.
Every voice sings a chorus within me.
All beauty has come to rest in my eyes.
All bad thoughts have departed from me.
Today is a very good day to die.
My land is peaceful around me.
My fields have been turned for the last time.
My house is filled with laughter.
My children have come home.
Yes, today is a very good day to die.

川崎洋

向きあうもの として は 海
これまで 信じなかったもの と 不意に回路がつながる ことが あるやも知れぬ
海 海と 思いつづけることが ぼくにとっての 海 だ
両頬に戸をたてられて 海だけを見ている馬
だが 夢に 海が流れ入る ことは ない たぶん 水面の高さが同じだからだろう
死ぬまぎわ 思い浮かべるものは 非常に 海に近いものに違いない

茨木のり子

車がない
ワープロがない
ビデオデッキがない
ファックスがない
パソコン インターネット 見たこともない
けれど格別支障もない
   そんなに情報集めてどうするの
   そんなに急いで何をするの
   頭はからっぽのまま
すぐに古びるがらくたは
我が山門に入るを許さず
    (山門だって 木戸しかないのに)
はたから見れば嘲笑の時代おくれ
けれど進んで選び取った時代おくれ
         もっともっと遅れたい
電話ひとつだって
おそるべき文明の利器で
ありがたがっているうちに
盗聴も自由とか
便利なものはたいてい不快な副作用をともなう
川のまんなかに小舟を浮かべ
江戸時代のように密談しなければならない日がくるのかも
旧式の黒いダイヤルを
ゆっくり廻していると
相手は出ない
むなしく呼び出し音の鳴るあいだ
ふっと
行ったこともない
シッキムやブータンの子らの
襟足の匂いが風に乗って漂ってくる
どてらのような民族衣装
陽なたくさい枯草の匂い
何が起ころうと生き残れるのはあなたたち
まっとうとも思わずに
まっとうに生きているひとびとよ

Madisen Kuhn

who are you,
really?
 
you are not a name
or a height, or a weight
or a gender
you are not an age
and you are not where you
are from
 
you are your favorite books
and the songs stuck in your head
you are your thoughts
and what you eat for breakfast
on saturday mornings
 
you are a thousand things
but everyone chooses
to see the million things
you are not
 
you are not
where you are from
you are
where you’re going
and i’d like
to go there
too

一休宗純, 富士正晴

森公乗輿
  鸞輿盲女屡春遊
  鬱鬱胸襟好慰愁
  遮莫衆生之軽賤
  愛看森也美風流
 
美しい車にのって 盲女しばしば春遊び
鬱したる気分にはいい 愁いが慰む
どうでもいいよ 人々が下にみるとも
わが愛し看る森よ はんなりしてるよ
美人陰有水仙花香
  楚台応望更応攀
  半夜玉床愁夢顔
  花綻一茎梅樹下
  凌波仙子遶腰間
 
女体視るべし のぼるべし
夜半のベッド 人恋し気な顔がある
花はほころぶ一茎 梅樹の下に
水仙は腰の間をめぐるなり
九月朔森侍者借紙衣村僧禦寒。
瀟洒可愛。作偈言之。

  良霄風月乱心頭
  何奈相思身上秋
  秋霧朝雲独瀟洒
  野僧紙袖也風流
 
 
 
 
ああええなあ むらむらするわ
どないしよう 思い合うてる仲じゃけど
なんとまあ おまえばかりが瀟洒じゃな
わしの紙衣も 見栄えがしたわ

あほらしくてこんな風に反訳するより仕方がない。良霄風月も、
秋霧朝雲も、つまりは森へのほめ言葉にすぎぬ。

Анна Ахматова

После ветра и мороза было
Любо мне погреться у огня.
Там за сердцем я не уследила,
И его украли у меня.
 
Новогодний праздник длится пышно,
Влажны стебли новогодних роз,
А в груди моей уже не слышно
Трепетания стрекоз.
 
Ах! не трудно угадать мне вора,
Я его узнала по глазам.
Только страшно так, что скоро, скоро
Он вернет свою добычу сам.

ανεμώλια, Γιώργος Σαραντάρης

WaveΗ καρδιά μας είναι ένα κύμα που δεν σπάει στην ακρογιαλιά.
Ποιος μαντεύει τη θάλασσα, απ’ όπου βγαίνει η καρδιά μας;
Αλλά είναι η καρδιά μας ένα κύμα μυστικό, χωρίς αφρό.
Βουβά πιάνει μια στεριά.
Και αθόρυβα σκαλίζει το ανάγλυφο ενός πόθου,
που δεν ξέρει απογοήτευση και αγνοεί την ησυχία.
 
Γ. Σαραντάρης

管啓次郎

水はどこまでめぐるのだろう、水はいつまであるのだろう。そもそも、いつどうして、地球には水ができたのか。なんの答えも知らぬまま、水をたどっていつも歩いている、走っている。流れる水のかたわらで、ぼくの体にも水が流れている。

紫式部, 土佐光吉, 千野香織

「朧月夜に似るものぞなき」と、うち誦じて、こなたざまには来るものか。いとうれしくて、ふと袖をとらへ給ふ。女、「あな、むくつけ。こは誰そ」とのたまへど、「何かうとましき」とて、

深き夜のあはれを知るも入る月のおぼろげならぬ契りとぞ思ふ

hananoen


以上のように見てくると、「花宴」を表す一枚のこの絵は、複数の時点、複数の場面からモチーフを寄せ集め、それらをバランスよく一つの構図のうちにまとめて、創り上げられたものだということがわかるであろう。この絵は、確かに一見すると、二人が恋に落ちる直前の瞬間をあざやかに切り取ってみせたかのような印象を与える。しかし、そのように見えてしまうのは、絵師の創意工夫がまさしく成功しているためであって、一つ一つのモチーフの意味を詳しく検討していくと、この小さな画面のなかに、時間の相が複雑に入り組んでいることが理解されるのである。

Владимир Маяковский

Для веселия
        планета наша
                мало оборудована.
Надо
        вырвать
                радость
                        у грядущих дней.
В этой жизни
                помереть
                        не трудно.
Сделать жизнь
                значительно трудней.

Rainer Maria Rilke

Sein Blick ist von Vorübergehen der Stäbe
so müd geworden, daß er nichts mehr hält.
Ihm ist, als ob es tausend Stäbe gäbe
und hinter tausend Stäben keine Welt.

Der weiche Gang geschmeidig starker Schritte,
der sich im allerkleinsten Kreise dreht,
ist wie ein Tanz von Kraft um eine Mitte,
in der betäubt ein großer Wille steht.

Nur manchmal schiebt der Vorhang der Pupille
sich lautlos auf—. Dann geht ein Bild hinein,
geht durch der Glieder angespannte Stille—
und hört im Herzen auf zu sein.

愛(紅碧)

空気のような存在でいたいとあの人は言う
きみがいないと生きていけない
という言葉の代わりに
彼はそんなことをいう

谷川俊太郎

誰にでも自分に必要な言葉ってのがあると思う。でもそれが前もって分かってる訳じゃない。その言葉に接して初めて、ああこういう言葉を自分は欲していたんだと知る。必要な言葉はアタマやココロだけでなく、カラダの奥にまで入ってくる、いわゆる〈腑に落ちる〉んだ。
このごろ、小説の言葉がぼくには不要になりつつある。面白いけどいまこういう言葉は自分に必要じゃないと感じてしまう。年取って人生の基本が腑に落ちてくると、細部がどうでもよくなってくるのかもしれない。詩の言葉はいまだに不要じゃないようだ。これは自分でも書いてるから。

思潮社

20140929-10月号【特集Ⅱ】石牟礼道子を読む
◎シンポジウム
渡辺京二+伊藤比呂美+谷口絹枝+ジェフリー・アングルス
「石牟礼文学の多面性――いま石牟礼道子を読む」
◎『祖さまの草の邑』を読む
井坂洋子、季村敏夫、姜信子、上田眞木子

灯らんとして消ゆる言の葉といえども
いずれ冥途の風の中にて
おのおのひとりゆくときの花あかり

ただ滅亡の世せまるを待つのみか
ここにおいて われらなお
地上にひらく 一輪の花の力を念じて合掌す

石牟礼道子

ああ
このような雪夜じゃれば
ひょっとして
ここらあたりの原っぱの
赤いひがん花の
花あかりのもとで
身づくろいしておった
あの
しろい狐御前の子に
また生まれ替わるのかもしれん

いまはまだ
けやきの大樹の根元にいて
天の梢から降ってくる雪にうたれながら
みえない繊い糸を
くわえ くわえ
うなじを反らしているばかり

手も無か
足も 無か
目も無か
めめんちょろの
野蚕さんになっておって
這うて漂浪くのが
役目で
ございます