村上春樹

HarukiMurakami僕は普段、あまり人前に出ません。テレビやラジオに出たことはないし、講演もまずやらない。普段は人前に出ないのは、普通の生活を送る普通の人間で、地下鉄やバスであちこち行くので、声を掛けられるのは困るんです。もともと、そういうことにあまり向いていません。この前は、自宅の近所をジョギングしていたら呼び止められ、「村上春樹の家はこの辺にありますか?」と聞かれ、「分からない」と言って逃げました。
小説を書くときは集中し、一生懸命に書いている。朝早く起きて、夜は早く寝る。手抜きをしないのは僕の誇りです。

One thought on “村上春樹

  1. shinichi Post author

    村上春樹氏 公開インタビュー

    時事ドットコム

    http://www.jiji.com/jc/v4?id=201305murakamiharuki_int0001

    ユーモラスに、冗舌に

     作家の村上春樹氏が2013年5月6日、京都市の京都大百周年記念ホールで「公開インタビュー」に出席した。国内の公の場で語るのは極めて異例。心理学者の故河合隼雄氏の7回忌に「河合隼雄物語賞・学芸賞」が創設されたのを受け、村上氏が河合氏と親交が深かったことから開催が実現した。

     インタビューと前後して行われた講演と「質問コーナー」を通じて、文学への目覚めから過去の作品、新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」、趣味のマラソン、音楽まで、幅広いテーマについて時にユーモラスに、冗舌に語った。村上氏の肉声の一部を紹介したい。

        ※    ※    ※

     公開インタビュー前の講演では、公の場に出ない理由、河合氏との交流などについて率直に話した。

     僕は普段、あまり人前に出ません。テレビやラジオに出たことはないし、講演もまずやらない。普段は人前に出ないのは、普通の生活を送る普通の人間で、地下鉄やバスであちこち行くので、声を掛けられるのは困るんです。もともと、そういうことにあまり向いていません。この前は、自宅の近所をジョギングしていたら呼び止められ、「村上春樹の家はこの辺にありますか?」と聞かれ、「分からない」と言って逃げました。

     文章を書くのが仕事だし、他の事にはあまり首を突っ込みたくない。僕のことはイリオモテヤマネコみたいに絶滅危惧種の動物と思っていただけたら、ありがたいです。

     物語とは人の魂の奥底にあるもので、小説を書くときは深いところまで降りていく。そんな僕のイメージを丸ごと受け止めてくれたのは河合先生以外にいませんでした。

     河合先生は臨床の現場でクライアントと向き合い、相手の魂の暗いところに降りていったのでしょう。よく駄洒落を言われましたが、絡みつく闇の気配を振り払うために必要だったのだろうと解釈した。僕の場合、外に出て走ることで、小説を書くことで付いた闇の気配を振り落としてきました。

    生身の人間に興味

     インタビューでは、新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」についての思いや逸話も数多く聞くことができた。

     「色彩を持たない―」は、主人公の成長物語。昨年2月から半年かけて書き、それから半年ほどの間に何度も書き直した。僕は書き直すことが好きなんです。

     当初は短い小説にするつもりだったが、主人公の友人だった4人のことをどうしても書きたくなりました。また、(主人公のガールフレンドの)木元沙羅は僕を導いてくれた不思議な存在だった。今回は生身の人間に対する興味がすごく出てきて、登場人物のことを考えているうちに(登場人物が)勝手に動き出した。この作品を書いて、頭と意識が別々に動く体験を初めてした。僕にとっては新しい文学的試みだった。3~4年前なら書けなかったかもしれない。

     この作品は、(登場人物の会話を多用した)対話小説という気がする。僕は会話を書くことに苦労したことは一度もない。会話でつないでいくストーリーはわりと好き。難しいのは、会話が重なっていくうちに体温が変化している感じを出さないといけないところです。

     今までの小説では1対1の人間関係を描いてきたけれど、今回は5人という大きなユニット(の関係)だった。「1Q84」という3人称の小説を書いた後だったので、それとはまた違う形で(3人称の物語を)書きたいという気持ちが出てきたのでしょう。

    「1Q84」は総合小説

     評論家の湯川豊氏の問い掛けに応じ、文学的ルーツや過去の作品についてもコメントした。

     僕は小学4年生ぐらいから急に本を読むようになり、図書館に通って手当たり次第に読みました。中学に入ってからは19世紀文学に浸りっぱなしで、体に染み付いている。「戦争と平和」「カラマーゾフの兄弟」は何度も読んだ。日本の小説は大学に入ってから読むようになった。夏目漱石、谷崎潤一郎など、文章のうまい人たちが好きです。

     最初の長編2作は、ジャズの店をやっていて、仕事が終わってから時間を見つけて書いていた。まとまった物語を書く余裕はなく、小説を書く訓練を全くしていなかったので、書き方が分からなくて。しばらくして店をやめて1日好きなだけ時間を使って書いた。思いつくままに書いていく中で「物語」を書ける喜びにつながり、「僕は向いているんだ」と思うようになりました。

     「羊をめぐる冒険」と「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は、ただただ楽しんで書いた。そして、「ノルウェイの森」を書くときは、ここでリアリズム小説を書かないと、もう一つ上の段階に行けないと思った。僕としてはそれなりにうまく書けたが、実験的だと思っていたものがベストセラーになったことで、ストレスやプレッシャーを感じた。「ねじまき鳥クロニクル」では重層的な世界をつくるという新しい試みをしました。

     小説を書き始めたころ、書きたいけれど書けないことがいっぱいあって、書けることを集めて書いていた。書きたいことを書けるようになったと感じたのは2000年ごろだった。

     「1Q84」は全部3人称で書いたが、長編の3人称はすごく難しい半面、たくさんのことを書ける。どこにでも行けるし、誰にでもなれる。幾つものミクロコスモスが反応し、総合小説という僕のやりたかったことのフォーマットができました。

    ユーモアへのこだわり

     小説家としてのこだわりについても熱っぽく語った。

     僕の本を読んで「泣きました」と言う人がいますが、どちらかというと、「笑いが止まりませんでした」と言われる方がうれしい。「泣く」というのは個人的なものだけど、笑いはジェネラル(一般的)なものだと思う。「悲しみ」という内向きな感情も大事だが、ユーモアの自然さ、自由さみたいなものがすごく好きで、文章を書くときはユーモアをちりばめていきたい。

     僕自身、自分の作品を読み返して胸を打たれたり、涙を流したりすることはない。もっと引いて書いているが、(地下鉄サリン事件の遺族らにインタビューした)「アンダーグラウンド」だけは泣いてしまう。ある遺族に3時間ぐらいインタビューし、その帰りに1時間も泣いた。あの本を書いたのは僕にとって大きな体験で、(それが)小説を書く時によみがえってくるのです。

     物語に深みや奥行きを与えるのはすごく難しい。音楽も同じだが、読者に感応してもらえれば、その周りの人に共鳴し、ネットワークができていく。「どうして僕が考えていることが分かるんですか」と言われると、すごくうれしい。

     小説家の役目とは、少しでも優れたテキストをパブリックに提供すること。そのテキストを、読者は好きなように咀嚼(そしゃく)する権利がある。小説家が、自分の作品を分析し始めることほど具合が悪いことはない。

     小説を書くときは集中し、一生懸命に書いている。朝早く起きて、夜は早く寝る。手抜きをしないのは僕の誇りです。

    音楽に励まされる

     村上氏は音楽に造詣が深いことでも知られている。

     僕は音楽が好きで、音楽を聴きながら仕事をしていて、音楽に励まされている。小説の書き方は誰にも習っていないが、ジャズのリズム感が染み付いているので、演奏するみたいに書けばいいんだと思った。

     「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」で使ったリストの「ル・マル・デュ・ペイ」は、なぜかリストを聞きたくなって、何日も聞き続けたところ、あの作品にふさわしいと思った。また、ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」は「1Q84」に出したおかげでCDが売れたようで、(指揮者の)小澤征爾さんに「売れてよかった」と言われました。

     翻訳家としての顔もある。

     どのような小説が翻訳しやすいといえば、物語がどんどん進んでいく作品。地の文が長く、「グレート・ギャツビー」のように描写が濃密な小説は難しいところがある。僕が書くものは、結果的に翻訳しやすいところがあるかもしれません。

     公開インタビューの観覧希望者からは、「ランニングの今後のビジョンは?」という質問が事前に寄せられた。

     30年以上、毎年1回はフルマラソンを走っているけれど、タイムは40代をピークにだんだん落ちている。年を取ってくると体力が落ちるのは仕方がないが、とは言っても走れるように自分を作っていきたい。80歳とか85歳ぐらいまでフルマラソンを走れればいいのだけど。

    Reply

Leave a Reply to shinichi Cancel reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *