高野秀行

Takano現実には、難民の特徴は、驚くことに「表情が明るいこと」だ。カメラを向けると、女性たちがにこっと見返してくる。ソマリ人はたいがい写真が嫌いで、ましてや女性はムスリムでもあるし、絶対に顔を隠すか、すごくこわばった表情になる。私が一ヵ月半の間に撮った写真の中で、女性の朗らかな笑顔は難民キャンプのものだけだ。
なぜ明るいかというと、彼らはイスラム系カルトのアルシャバーブが支配し、食べるものもない土地からなんとか脱出して、やっと安全で食べ物もある場所にたどりついたからだ。ホッとしているのだ。
でも、そんな笑顔の写真を出したら誰も援助してくれないし、新聞や雑誌、テレビとしても、インパクトに欠ける。だから、苦労して、不自然な写真や映像を流しているのだろう。
もちろん、私だって、難民の人たちに食料が行き渡ってほしいから、「だから援助するな」とは言わない。しかし、情報操作あるいは捏造があまりにもひどいのではないか。

5 thoughts on “高野秀行

  1. s.A

    「イスラム飲酒紀行」 高野秀行

    私は酒飲みである。休肝日はまだない。

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  2. s.A

    やっとラマダンが終わり、新年際の「イード」も終わった。
    今日から仕事始め。
    だが、新年では大物政治家に挨拶に行ったり、えらい人にカネをせびりに行く習慣があるとかで、大臣や局長クラスの人はみんな、電話の電源を切っている。
    よって、相変わらず、取材のアポはとれず、帰国のめども立っていない。

    いつも葉っぱの話ばかりなので、たまにはマジメな(?)話もしてみたい。
    ソマリア大飢饉について。

    メディアの報道や国連などの発表は明らかにおかしい。
    半分くらいは嘘じゃないか。

    まず「アフリカの角(Horn of Afrika)の大飢饉」と呼ばれていること。
    アフリカの角とは、東アフリカのアラビア半島の対岸部分がサイの角のように三角に飛び出している地域で、国でいえば、ソマリア、ソマリランド、ジブチ、エチオピアとケニアの一部で、もっと端的に言えば、ソマリ人の居住域のことだ。

    ところが。
    ソマリランドでは飢饉など一切起きていない。
    食料の物価の上がってないし、昨日など、ソマリランド政府が南部ソマリアに援助の寄付金を送ったと発表した。

    プントランドでも飢饉はなかったし食料の物価は変わってなかった。
    エチオピアとケニア領でも飢饉があったとは聞かない。

    要するに、南部ソマリアでしか飢饉は起きていない。
    この時点で、国連その他の発表は「虚偽」である。

    気候は同じなのに、南部ソマリアだけで飢饉になっているということは、
    つまり旱魃によるものではなく、「人災」ということだ。
    福島の原発事故が人災というのと同じレベルの人災じゃないか。
    つまり、天変地異は災害のきっかけにすぎないということ。
    (これについては世界銀行が認めているようだ)

    今日、市場へ久しぶりに行った。
    で、穀物売り場に出くわした。市場は広大なので、私はそれまで穀物売り場を見すごしていたようだ。

    で、驚いたことに、米、小麦、とうもろこし、コーリャン、雑穀などがすべて、「WFP」とかUS-AIDEとか書かれた袋に入っていた。
    少なくとも袋は全部国連や国際NGOによる援助物資なのだ。

    もちろん、袋だけを使用しているかもしれない。
    でも、あまりにもフレッシュな袋も少なくない。
    そしてそのひとつには「日本国民からのギフト 世界食料計画」と記された袋もあった。

    私は現在、ソマリの国際ケーブルTV局に入り浸っているから、
    それについて訊ねてみた。
    全ソマリ地域に支局員がいて、情報が集まってくるからだ。

    すると、「証拠はないが、たぶん中には南部ソマリアやケニアの難民キャンプから来た援助物資が含まれているだろう」という話だった。
    横流しがここまで来ているわけだ。

    驚いたというより笑ってしまったのは、現在、モガディショでは食料の値段がすごく安くなっているということ。
    援助物資がどっと市内に出回っているからだという。
    だから、安い食料が外に流出し、ソマリランドまでたどりついたという推測である。

    ソマリ人ジャーナリストの間では、モガディショや南部ソマリアにおける国連関係と国際NGOの現地スタッフがいちばん腐敗していると有名だそうだ。
    政治家やウォーロードや氏族のボスなどの利害を調整し、セキュリティを確保するには
    そういうことに長けたブローカーが不可欠で、まさにそういうブローカーが現地スタッフを勤めているから、援助物資やカネは流れ放題だという。

    もちろん、国連やNGOは知っていてもそんなことはいわない。
    ただ「かわいそうな難民がたくさんいる」と繰り返し訴えるだけだ。
    国連やNGOのスタッフも難民がいてこそ食っていけるわけで、
    ネガティブな情報は出さない。

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  3. s.A

    もうひとつ、テレビやネットに出ている目もうつろで、やせ細った難民の人たちの姿。
    正直言って、そんな人たちは私はほとんど見てない。
    もちろん、いることはいるんだろうが、よほど熱心に探さないと見つからないだろう。

    現実には、難民の特徴は、驚くことに「表情が明るいこと」だ。
    カメラを向けると、女性たちがにこっと見返してくる。
    ソマリ人はたいがい写真が嫌いで、ましてや女性はムスリムでもあるし、絶対に顔を隠すか、すごくこわばった表情になる。
    私が一ヵ月半の間に撮った写真の中で、女性の朗らかな笑顔は難民キャンプのものだけだ。

    なぜ明るいかというと、彼らはイスラム系カルトのアルシャバーブが支配し、食べるものもない土地からなんとか脱出して、やっと安全で食べ物もある場所にたどりついたからだ。
    ホッとしているのだ。

    でも、そんな笑顔の写真を出したら誰も援助してくれないし、新聞や雑誌、テレビとしても
    インパクトに欠ける。
    だから、苦労して、不自然な写真や映像を流しているのだろう。

    もちろん、私だって、難民の人たちに食料が行き渡ってほしいから、
    「だから援助するな」とは言わない。
    しかし、情報操作あるいは捏造があまりにもひどいのではないか。

    ソマリアが20年も内戦を続けているひとつの大きな原因はここにあると思う。

    国際社会と現地の有力者の癒着、そしてそれの隠蔽。

    だから、私は次に書く本でこういうことを明らかにしていきたい…
    とはあまり思わなくて、今日も葉っぱに明け暮れているのだが、
    そんなことが見えるだけでも、やっぱり「現地」「現場」は面白い。

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  4. Pingback: 開発援助を考え直す | kushima.org

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