新渡戸稲造

国際聯盟事務局には一人の事務総長がいる。ジェームス・イーリック・ドラモンド卿がその人である。総長の下に三人の次長がある。仏、伊、日の三国から出ている。これらの人々はその本国を代表するものでなく、一種の国際人であって、本国の利害を離れて国際事務を処理している。従てまた本国より俸給その他の手当も受けないのである。各国人にしてジュネーブに来り、聯盟を研究する者さえこの点を諒解するに苦み、やはり事務局員を各国の代表者と思っている。
事務総長及び次長の下に十人の部長がある。経済財務、軍備縮少、社会問題、保健、交通、情報会計等の各部に部長があり、英、仏、伊、日、蘭、ポーランド、オランダ、カナダ、ノルーウェー、等の国人より成り、毎週一回二時間位の部長会議を開き、各種の問題を打合せまたは討議する。用語は総会と同じく英仏語であるが、いずれも英仏語に熟達しているので、前の人が英語で話せば、次の人もそれに釣られて英語で話すが、ちょっとつかえると自分の仏語に戻り、次の人もそれにつれて仏語で話し、つかえるとまた英語に戻るというような風である。
部長の下に事務官、書記があって、それぞれの事務を執っている。事務局の局員総数は四十ヶ国、四百七十人より成っている。従来国際会議の事務所というものが設けられてあるが、その事務員は少きは二、三人、多くも五十人に上らぬ少数で事務を処理しているが、国際聯盟の事務局はこれに比すれば堂々としたものである。この内英国人は六、七十人、仏人は五、六十人、瑞西人は本国であるだけに四、五十人もいる。日本人は我輩の外に三人あるのみである。

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