宮脇昭

130410-104033-1小雨交じりの木枯らしが吹く厳しい条件の中、植物や土壌断面の野外調査ばかりの毎日に少し疑問を感じた私は、一ヶ月ほどたった頃、チュクセン教授に「もう少し科学的な研究をしたい」とおそるおそる申し出ました。チュクセン教授はゲルマンの最後の古武士のような厳しい人でした。青い目でじっと私を見て、「何が科学的か」と問うたのです。
「たとえばベルリン工科大学でこの教授の講義を聞きたい。ボン大学でこの本も読みたい」と答えると、
まだ君は人の話を聞いたり本を読んだりするのは早い。現場に出てみろ、三〇数億年の命の歴史と巨大な太陽のエネルギーのもとにドイツ政府が何百万マルク研究費をくれてもできない本物の命のドラマが展開している。それを自分の体を測定器にして、目で見、手で触れ、においをかぎ、舐めて触って調べろ
と言って、私は徹底的に現場で植物を見る術を叩き込まれました。

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