小出五郎

Beeミツバチの激減が世界中で問題になっています。アメリカの養蜂家によると、2006年以来、年間に30ないし35%減少しているといいます。ミツバチが少なくなると蜂蜜が値上がりするという単純なことではなく、農作物の生産が大打撃を受ける可能性があるのです。国連の食糧農業機関(FAO)によると、100種類の作物のうち71種類、それは食料全体の90%にあたるのですが、ミツバチが花粉を運んで実らせているといいます。それが失われる危機というわけです。
いったいミツバチ激減の原因はいったい何なのか。安全性が高いということで世界的に普及しているネオニコチノイド系農薬がいちばんに疑われています。欧州連合(EU)は今年の春、予防原則を適用して「ネオニコチノイド系農薬の2年間使用禁止」を決めました。
しかし、ネオニコチノイド系農薬が原因という確かな証拠はありません。他にもさまざまな要員がありその相互作用の結果ではないかとみられます。だからこそ「予防原則」というわけです。
「予防原則」の適用は、明確な証拠はないがとりあえず禁止して、不確実なところを明らかにして再検討するということで、単に先送りして放置するということではありません。
もしネオニコチノイド系農薬が原因の一つという可能性があるなら、そして量より質の高品質農業を実現しようとするなら、EUが決めた「予防原則による2年間の使用禁止」は極めて妥当な措置です。

4 thoughts on “小出五郎

  1. shinichi Post author

    ミツバチ激減は農業の危機

    by 小出五郎

    科学ジャーナリストの5656報告

    http://koide-goro.com/?p=2068

    ミツバチの激減が世界中で問題になっています。
    アメリカの養蜂家によると、2006年以来、年間に30ないし35%減少しているといいます。

    ミツバチが少なくなると蜂蜜が値上がりするという単純なことではなく、農作物の生産が大打撃を受ける可能性があるのです。
    国連の食糧農業機関(FAO)によると、100種類の作物のうち71種類、それは食料全体の90%にあたるのですが、ミツバチが花粉を運んで実らせているといいます。
    それが失われる危機というわけです。

    いったいミツバチ激減の原因はいったい何なのか。安全性が高いということで世界的に普及しているネオニコチノイド系農薬がいちばんに疑われています。
    欧州連合(EU)は今年の春、予防原則を適用して「ネオニコチノイド系農薬の2年間使用禁止」を決めました。

    しかし、ネオニコチノイド系農薬が原因という確かな証拠はありません。他にもさまざまな要員がありその相互作用の結果ではないかとみられます。
    だからこそ「予防原則」というわけです。

    「予防原則」の適用は、明確な証拠はないがとりあえず禁止して、不確実なところを明らかにして再検討するということで、単に先送りして放置するということではありません。

    それはともかく、ハウスの中で蜂に花粉の運搬を託している様子を、福島県の鮫川村の農家Kさんのところで見学してきました。

    Kさんは農薬を使用しない有機農業で見事な色合いと見事な味わいの高付加価値のトマトを生産していました。

    農薬を使っていないことがハチを使うときの最低条件です。
    Kさんは、モモタロウ系のナツミという中玉の品種を栽培しているハウスで、ミツバチのピンチヒッターとして在来種のクロマルハナバチを使っていました。

    ハウスにはハチが逃げないように、換気部や人の出入り口には網が張ってあります。中に入ると、取り入れ近いトマトがたわわに実っていました。
    ということは、クロマルハナバチに授粉させることに成功したことを意味しますが、いまの季節は、花は少数残っているもののハチが授粉してまわる最盛期は過ぎていることになります。

    それでも、最盛期を推測できる気配はありました。写真の30cm四方厚さ10cmほどのダンボールの箱の中に、クロマルハナバチの巣があります。

    トマトの花が咲くころを見計らって業者から購入しました。
    そのとき、中に女王蜂が1匹、複数の雄蜂、それに授粉の主役である働き蜂が150-400匹入っていました。

    クロマルハナバチはかなり大きくて丸みのある蜂です。黒い1円玉くらい感じです。
    性質はおとなしく、もちろん刺されれば痛いことに変わりはありませんが、人を襲うことはありません。

    巣の入ったダンボールの、「出入口」をカットして「巣門」を開いてやると働き蜂が出てきます。

    クロマルハナバチはハウスに来て1~5日に偵察行動をした後に花に行くようになります。それを「訪花活動」というそうです。
    花にとまって雄しべを噛んで花粉を集めるのですが、その時にからだに付着した花粉が雌しべにつき、「授粉」ができるのです。

    トマトにしてみれば、花粉を少々分けてやる代わりに子孫(実の中のタネ)を残せるわけです。人間は実をいわば横取りして食用にします。
    蜂は巣の中で女王蜂と雄蜂が交尾して生まれる幼虫の、栄養価の高い餌にするために花粉を集めるのですが、その時ついでに「授粉」するのです。

    トマトの花はいっせいに咲くわけではありません。クロマルハナバチは45日から60日「訪花活動」をするそうです。

    Kさんはその間、「授粉」が成功しているかどうかをチェックします。ハウス内が30℃を越えていないか、日照量はどうか、トマトの樹勢はどうか、雄しべに「バイトマーク」という噛み跡があるか、働き蜂の栄養源である糖蜜(写真のダンボールの下半分、白いところに入っている。働き蜂の栄養源)は十分か、糖蜜が不足していたら等量の砂糖と水を脱脂綿に吸わせて空き缶に入れ、ハウスの数か所に配置するなど、気配りが必要です。

    最近はUVカットのハウスもありますが、紫外線が不足するとハチの目には花がよく見えなくなってしまいます。蜂の身になって居心地を良くする配慮も必要です。

    Kさんの話を聞くと感心の連続です。農業とは一朝一夕でできることではない、経験の蓄積と高度な技術が欠かせないことがよくわかります。

    クロマルハナバチに授粉を託すことを決めたのは、Kさん夫妻の決断でした。
    農薬を使わない生産をしたいのが第一です。
    ハウスの中でもいだトマトはそのまま口に入れることができます。トマトの旨み,優しい、しかしいかにもトマトらしい味わいが口いっぱいに広がります。

    これからの農業は、量より質が重要です。特に中山間地の小規模農業では、高品質の生産物生産が、最適の選択肢になるでしょう。そのための蜂なのです。

    さらに、蜂を使わない場合、花を植物ホルモンのオーキシンに浸す方法、「耳かき」でして雌しべに花粉をつけてやる方法があるものの、いずれもかなりの重労働です。
    若いとは言えない夫妻だけで実行するのは不可能ということから、クロマルハナバチの導入を決めたということでした。

    ところで、授粉のためにしっかり働いてくれた蜂の運命にも触れておきます。
    クロマルハナバチは在来種ですが、他にもセイヨウオオマルハナバチのような外来種も使われています。
    外来種はもとより在来種も、授粉が終わった後に自然界に解放すると、周辺生態系に大きな影響が出る可能性があります。実際に逃げ出した蜂が野生化しているところもあるようです。

    そこで、人間の身勝手に心痛むところはありますが、無用になったらダンボール入りの巣をビニール袋に入れて日なたに曝し高温殺する、あるいは殺虫剤で始末することになっています。

    現在世界中でミツバチが激減しているのですが、激減しているのはもっとも扱いやすいミツバチだけではありません。
    最初に述べたように蜂の激減は農業生産激減につながりかねない危機なのです。

    もしネオニコチノイド系農薬が原因の一つという可能性があるなら、そして量より質の高品質農業を実現しようとするなら、EUが決めた「予防原則による2年間の使用禁止」は極めて妥当な措置です。
    アメリカでは、蜂に止まらず人間のこどもに行動異常が起きるというコホート研究が発表されました。
    日本が海外の様子見で時間を空費していいわけがありません。

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  2. shinichi Post author

    (sk)

    予防原則とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。

    The precautionary principle or precautionary approach states if an action or policy has a suspected risk of causing harm to the public or to the environment, in the absence of scientific consensus that the action or policy is harmful, the burden of proof that it is not harmful falls on those taking an action.

    予防原則という言葉はどうも馴染まない。

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  3. shinichi Post author

    友への手紙 「緊張」より「和解」を選びたい      

    by by 小出五郎

    科学ジャーナリストの5656報告

    http://koide-goro.com/?p=2061

    なぜ日本は中国、韓国と「和解」できないのか。東アジアの緊張はなぜ高まっているのか。その責任について、なぜ世界は日本に厳しい評価をし、政治の右傾化に懸念を示しているのか。

    日本が中国、韓国(そして北朝鮮)を侵略したのは明らかな事実です。その事実を否定し割り引こうとする傲慢不遜で歪んだ「歴史認識(自慢史観)」が、混迷の元になっているのです。

    「認識」は人それぞれですが、少なくとも「日本は誤った歴史を繰り返えす国ではない」と、当事国はもちろん世界が認めるに至らなければ「和解」の道は開けません。
    他国に迷惑をかけたと言いながら、他国民だけではなく自国民にも「迷惑」をかけた責任者を英雄視しようとする倒錯した事情を、各国は理解できるでしょうか。

    「謝罪」しても口先だけ、自慢史観の歴史認識を主張し行動が伴わなければ、「謝罪」に何の効果もないことはこれまでの経緯からも明らかです。

    日本の侵略から生じた歴史上の事実をなかったことにするなら、広島、長崎、都市大空襲などの、日本に対する非戦闘員の無差別殺戮もなかったことになるのでしょうか。
    ついでにパールハーバーもなかったことにできますか。それでいいのでしょうか。

    戦後から間もなく70年にもなるに、いまだに事実上の占領下にある沖縄で続発する様々な事件も、ないことにできますか。

    歴史認識が違うから何事もなかったとする論理はあり得ないのです。事実を事実として認めることからしか「和解」はスタートしないのです。

    付け加えると、「はだしのゲン」にある「残虐行為」の描写がこどもにトラウマになるというもっともらしい理由で、作品を小学生から隔離しようとした教育委員会の措置がニュースになりました。
    子どもへの影響を口実にすれば抵抗が少ないと考えたのでしょうが、多分ある種の政治勢力を慮ってのことだろうと思います。

    描かれたような日本の残虐行為を想像したくないのは確かですが、その気になればその相似形を国内に見ることも可能です。
    中国から強制連行してきた人々、植民地だったために都合の良い時だけ日本人として徴用した朝鮮の人々の奴隷労働の実態は、日本国内の炭鉱、鉱山などに記録として残され、高齢者ばかりですが目撃者もいます。
    たとえ相似形であっても自分の目と耳で確かめる努力をしないで、「残虐行為があったはずがない」と言いふらしていいはずはありません。

    国内の欲求不満が高まるときに台頭するのが極右勢力です。
    ナチスの再来に敏感なヨーロッパ諸国には、極右を識別するための3つの共通指標があります。
    排外主義、人種差別、格差拡大です。

    不幸なことに、政治、経済、社会の八方ふさがりの閉塞感が続く中で、この3つの共通指標の当てはまる政治勢力が日本にも出てきました。
    選挙制度の欠陥から民意とはねじれた国会の勢力分布になっていますが、現政権、現政権を補完する複数の政党に対して、私は3つの共通指標に照らして不安と不信を感じます。

    日本をどこへ連れて行こうとしているのでしょうか。新大久保のデモやネットに溢れる「ヘイトスピーチ」の流行は、政治状況の右傾化を追い風としています。国内向けの威勢の良い政治家の台詞を欲求不満のはけ口とする卑劣な行為だけは止めたいものです。

    このように「緊張」を高めて「昔を取り戻す」のではなく、未来指向の「和解」を念頭に置いて、私たちは発言する必要があるのではないでしょうか。
    それは現代を体験してきた世代が「未来の世代を守る責任」を果たすことだと思います。
    戦争、紛争、武力による威嚇を避けるほど「あらゆる意味でトクなことはない」として、「和解」の道を探る選択こそが今いちばん必要な道です。

    尖閣諸島、竹島、北方領土は、棚上げして次世代の知恵者に任せるやり方があります。
    尖閣諸島については、中国と「棚上げ」という暗黙の合意がなされていたのですが、無知からくる不用意な政治的発言と問題処理の不始末が今日の状況を招きました。

    南極大陸は、条約によってどの国も領土権を主張しない、軍事利用をしない、資源開発をしないなどを定めて、各国の利害対立が紛争に発展するのを防いでいます。
    この条約を教訓として同じように共同管理方式をとるやり方もあります。

    「和解」のための交渉に100%の勝ちはありませんが、矜持が守られ、尊敬が得られる可能性もあります。

    「和解」への一歩として、日本は侵略を繰り返さない国という評価を、中国、韓国はもちろん世界から得られるように言行一致させること、国際的にも国内的にも時間をかけてそうした日本の考えを広めることが大切です。

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  4. shinichi Post author

    小出五郎
    1964年にNHKに入社、2004年に退社
    1989年から解説委員、解説主幹

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