新見正則

Niimiたくさんの人が『健康診断病』だよね。元気な人が健康診断を受けて、最高血圧が141、正常から1つでもあがったら高血圧だ、とかね。例えば、血圧が高くて頭が痛いとか、顔が熱いとか、夜眠れないとか、異常があるなら薬で血圧を下げればいい。だけど、すごく元気なのに、血圧が高いからという理由だけで、薬を飲んだりする人もいる。
キーワードは『人はいろいろ』。それをみんな十把一からげに血圧の数値に線を引いちゃうんだもん。高いのがハッピーな人もいれば、低いのがいい人もいる。ちょっとデブなのがいい人がいれば、ヤセがいい人もいる。
医療は経済学。薬が必要な病気の人と、まったく薬のいらない健康の人の間、グレーの人が多い。でも、経済学の仕組みの中では、グレーの人にも薬を処方した方がもうかる。それで、薬はどんどん増えていく。
グレーの範囲がとても広いということをみんなも知るべきだ。薬ではなく、運動しろよ、少しやせろよ、ストレス減らせよ、という指導がもっとあっていい。

3 thoughts on “新見正則

  1. shinichi Post author

    イグ・ノーベル賞 新見正則さん(1)オペラ椿姫で移植した心臓が長持ち
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=87526

    イグ・ノーベル賞 新見正則さん(2)匂いや運動でも効果に違い
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=87527

    イグ・ノーベル賞 新見正則さん(3)アタマがカラダに影響しているらしい
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=87528

    イグ・ノーベル賞 新見正則さん(4)半分治ったら、おかげさまと言おう
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=87529

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  2. shinichi Post author

     ――イグ・ノーベル賞、おめでとうございます。

     「ありがとうございます。うれしいです」

     ――具体的な研究内容を教えてください。

     「マウスに移植された心臓は、ふつうは(免疫の働きで異物と捉えられ)拒絶されて8日ほどで止まってしまうが、オペラの椿姫を聴かせると長く動いた。一番長く心臓が止まらなかったマウスは90日、平均で約40日。モーツァルトは約20日、アイルランドの歌手・エンヤは約10日だった。 ほかに試した音はみな、何もしない場合と同じ8日で無効だった。石川さゆりさんの『津軽海峡冬景色』、尺八、小林克也さんの英語教材、地下鉄の音、工事現場の音などで実験した」

     ――クラシック音楽が体に良いのでしょうか。

     「モーツァルトが効くというのは、乳牛の乳が出るとか、植物が生えるとか、いろいろな話があるようだね。でも椿姫の方が長かった」

     ――日本代表が津軽海峡冬景色だった理由は?

     「ないない。好きだから。いいじゃない、天城越えとか」

     ――実験にはどれくらいの時間がかかったのでしょうか。

     「実験室の中ではひとつの音楽しか流せないから、実験にはすごく時間かかった。構想からは15年ぐらい、実験に10年はかかった。
     それに、こういうおもしろい実験ばっかりやっているわけではないから。時間が余ったときだけやるから。こちらはお金を稼ぐ、普通の実験もやって、研究予算をもらわないといけない(笑)。オペラとマウスの実験は、細々とやってきた。趣味の実験だから」

     ――趣味ですか?

     「だってそんなの誰も信じないじゃない。結論を聞くからさ、お前もっと早く研究できるだろうって言うけどさ。音楽を聴かせて寿命が延びるなんて思わないもの。
     でも、宇宙人がいないと決めてしまうのは僕は嫌いだし、お化けもいるかもしれないなと思っている。もしも音楽を聴かせて長生きしたら、すごいことだということで、試しにしてみようと始めた」

     ――音楽以外の実験もしたのですか。

     「匂いと運動も実験した。匂いは不妊症の女性などに使われる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が一番効く。100日も、移植した心臓が止まらなかった」

     ――椿姫より長かったのですね。

     「そうだよ。当帰芍薬散は6つの生薬からできているんだけど、そのうち1つずつの生薬の匂いを嗅がせても無効で、8日しかもたなかった。また、1つの生薬を抜くと6つのパターンの薬を作れるが、その6種類も全部無効だった。当帰芍薬散は6つの生薬を全部使うことが大事みたい。
     飲ませる実験では、当帰芍薬散は47日だった」

     ――なぜ当帰芍薬散を使ったのですか。

     「漢方はたくさん実験していて、その中で効果があったのが当帰芍薬散だったということ。
     実験の中で、もうひとつおもしろいのは柴苓湯(さいれいとう)。これを食べさせると100日以上ももった。ところが、柴苓湯の匂いを嗅がせても、9日間で無効だった。
     また、当帰芍薬散と柴苓湯を一緒に食べさせたり、匂いを嗅がせたりしても効かなかった」

     ――一緒にすればよいというものではないのですね。

     「キツネの匂いでも実験してみた。マウスは先天的にキツネを敵だと思っているらしい。キツネの匂いを当帰芍薬散と一緒にすると効かない。当帰芍薬散の効果は、キツネの嫌な匂いが消すんじゃないのかな」

     ――運動についてはどのような実験をしたのですか。

     「2つの実験をした。ひとつは、マウスにくるくる回るホイールを与えたケース。これは走りたいときに走ればいい、疲れたらいつでも止められる自発運動の実験。
     もうひとつは、ベルトコンベヤーで、強制的に走らないといけないもの。走るのをやめると微量の電流が流れて、ちょっとした罰がある仕組みになっている。こちらを毎日1時間走らせる。
     すると、日によって値が違うが、中央値で、ベルトコンベヤー型は35日、自発運動では15日、移植心臓が止まらなかった」

     ――本人が嫌だといっても定期的に運動した方がいい、好きな時だけだとだめ、ということでしょうか。

     「なぜ違いが出るのかはわからないが、もしかしたら、1時間ぐらいなら運動した方がいいのかもしれないね。
     いま、運動を2時間にしてみたりとか、もっと速くしてみたりとか、いろんな実験をしているから。ちょっとした運動がいいのか、思いっきり運動した方がいいのか。あるいは短い時間がいいのか、長い時間がいいのか。そうすればわかるでしょう」

     ――食べ物や見る物にも、研究は広がっていきますか。

     「やるよ。視覚は当然やるよね。例えば、光刺激。太陽を浴びるのがいいのか、マウスは暗いところにいるから暗い方がいいのかとか。
     あと、眠り。傾斜のところにマウスを置いて、寝ると落っこちたりするようにしたりとか、いろんなことしようとしている」

     ――こうした実験から、どんなことがわかるでしょうか。

     「僕たち人間様は、薬を飲んだら治ると思っているじゃない。それも大切だけど、ちょっと運動しようとか、しっかり寝ようとか、健康的なものを食べようとか、音楽を聴こうとか、匂いを工夫してみようとか、いろんな感情があるじゃない。お父さん入院したから見舞いに行こう、そうしたら元気になって病気にもいいんじゃないかって。そういうことが実は、無意味じゃなさそうだということだよ。
     それが本当かと疑う人はしなきゃいいんだよ。だって見舞いに行くのはタダなんだから。
     でも、お父さん病気になったから見舞いに行くといいことがあるかも、というのも、まんざら嘘うそじゃなさそうだぜ、っていうのがわかっただけ。だから、行けばいいじゃん、信じて」

     ――見舞いに行くことが、お父さんの寿命に関わっているかもしれないし、関わっていないかもしれない。それが科学的にわかってきたということでしょうか。

     「実験でわかってきたことは、全部が現象論。ノーベル賞を取ろうと思ったら、その途中を解明しないといけない。アタマがどうやって(移植心臓を異物として拒絶したりする)免疫機能に介入しているかということを解明しない限り、ノーベル賞にはならないよ。アタマが何をしているのか。津軽海峡冬景色と椿姫では何が違うのか。インプット(入力するもの)もアウトプット(結果)もわかっていて、その途中がまだわかっていない」

     ――ただ、この研究は、みんなが体験的に感じていることでもあります。

     「新聞社とかでも、締め切りを過ぎたら風邪ひくとか、ない? 締め切りまでは元気だったけど、過ぎたとたんに寝込んじゃったとか。
     医者の場合は、3年ぐらいは大丈夫と思っていたがんの患者さんが、すぐ亡くなったりすることがある。逆に、長くないだろうと思った患者さんが、やる気があって長く生きたりすることもある。なんとなくイメージでは、闘病意欲があってがんばる人が長生きだし、人生を捨てたようなたたずまいの人の方が早死にという印象があるよね」

     ――医師の立場では、なかなか言いにくいことではないでしょうか。

     「こうしたことは思い込みだって言う医者はいるかもしれない。でも、ぜんそくやアトピーの患者さんに対してならば、『思い込み』なんてきっと言わないよ。ストレスがあるとぜんそくやアトピーが悪化するって思っている人が多いはず。
     音楽でも、ストレスでも、なにかアタマがアウトプットに影響している。これは、ぜんそくやアトピーならば、多くの一般の人も、まず医者はそう思っている」

     ――イグ・ノーベル賞は人を笑わせ、そして考えさせる研究に贈られる賞です。

     「そう、笑わせるだけじゃダメなんだ。そして考える、そこが大事なんだ。オペラが効いたっていうのは、その結果の向こうにはもっと広い何かが待っているわけだよな。それは、みんながうさんくさく思っている『リラックスしている人のほうが長生きだ』っていうこと。それ本当だろうか。それを研究できれば、世の中に役立つんじゃないかな」

     ――リラックスしている方が長生き、ということが本当ならば、病院に行く回数も減るかもしれません。健康にいつも不安を感じる現代人に、大きなメッセージです。

     「たくさんの人が『健康診断病』だよね。元気な人が健康診断を受けて、最高血圧が141、正常から1つでもあがったら高血圧だ、とかね。例えば、血圧が高くて頭が痛いとか、顔が熱いとか、夜眠れないとか、異常があるなら薬で血圧を下げればいい。だけど、すごく元気なのに、血圧が高いからという理由だけで、薬を飲んだりする人もいる」

     ――元気なうちに薬を飲みはじめなくては、と思っている人もいます。

     「キーワードは『人はいろいろ』。それをみんな十把一からげに血圧の数値に線を引いちゃうんだもん。高いのがハッピーな人もいれば、低いのがいい人もいる。ちょっとデブなのがいい人がいれば、ヤセがいい人もいる。
     医療は経済学。薬が必要な病気の人と、まったく薬のいらない健康の人の間、グレーの人が多い。でも、経済学の仕組みの中では、グレーの人にも薬を処方した方がもうかる。それで、薬はどんどん増えていく。
     グレーの範囲がとても広いということをみんなも知るべきだ。薬ではなく、運動しろよ、少しやせろよ、ストレス減らせよ、という指導がもっとあっていい」

     ――ここまでの話は、診療に漢方を取り入れたことと関係がありますか。

     「漢方は、10年前、セカンドオピニオン外来の担当になってから始めた。それまで、僕は血管外科の専門家だったから、専門領域以外の患者さんには、『違いますよ、別の診療科へ行ってください』と言えばよかった。ところが、セカンドオピニオンはどんな患者でも診る。こんなに悩んでいるんだ、行くところがないんだ、と知った」

     ――なぜそこで漢方を取り入れることになったのでしょうか。

     「漢方薬はラムネよりは絶対に効くから(笑)。大切なことは、体の不調の多くは、本当は時間の経過でも治る。でも、みんな、それを忘れている。そんな時、西洋薬は副作用が強いから、ラムネのようにやさしい漢方薬の方がいいケースも多い。最初から西洋薬と同じように即効性があると思うから腹が立つ。ラムネと思って、時間をかけて治していけばいい」

     ――セカンドオピニオンでは、どんな訴えをする患者さんがいらっしゃいましたか。

     「加齢現象なのに、病気だっていう人がいたね。夜中に2回もトイレ行く、と悩む50歳代、60歳代の人がくる。そうしたら、『俺も2回行くよ』と話すと、喜んで帰るよ。『おぉ、先生、病気じゃないんだ!』って。これを2回は病気だと思って薬を飲んじゃうから『病気』になっちゃうんだよ。
     白髪がふえたり、老眼になったりすることと同じように、トイレに2回行くようになるの。年を取れば、特に男性は前立腺が肥大して膀胱ぼうこうを圧迫して、がまんしにくくなるんだから」

     ――加齢現象と病気、間違えそうですね。

     「医療に経済学が入ると、加齢を病気にするのが一番簡単なんだよ。薬を飲むと20歳に戻りますよ、と宣伝文句をいうと、どんどん売れるわけじゃない。どんどん病気が増える。顔がほてる、ちょっと太る、眠れない、ほとんどは加齢が原因でしょう」

     ――こうした症状には、確かに漢方は役立ちそうですね。

     「漢方の治療をしたら、症状の半分か4分の3は良くなるかもしれない。でも残りは、完全には治らないかもしれない。『治る』というと、20歳を思い出し、もう一度そういう体に戻れると思う患者さんもいる。だから、半分は良くなる、残り半分は気合で良くなれ、受け入れろって言うことにしている。
     例えば、痛みが10あったとして、半分の5まで楽になったとする。それを、長生きしそうなリラックスしている人は、きっと『おかげさまで半分楽になりました』というでしょう。でも、そうでない人は、『先生ダメです。半分治りません』というかもしれない」

     ――心の持ちようは重要かもしれません。

     「考え方を変えるだけで、人間けっこう健康になるし、幸せになるよってことが、今回の研究で結構わかったわけだよ。半分治ったら、おかげさまって言おうとかさ。まだ半分治らないと言わないで、ね」

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