小出裕章

原子力発電とはウラン(一部はプルトニウム)の核分裂で発生するエネルギーを発電に利用するシステムである。そのため、エネルギーを得る一方で、核分裂生成物の生成が避けられない。広島に落とされた原爆の爆発力は 16 キロトン(1 万 6000 トン)であり、その時に核分裂したウランは 800g であった。今日では一般的になった 100 万 kW の原発の場合、1 年間に 1 トンのウランを燃やす。そのため、広島原爆が撒き散らしたものの 1000 倍以上の核分裂生成物(死の灰)を毎年生む。
原発は「トイレのないマンション」と呼ばれる。なぜなら、つかの間の華美な生活を求める一方で、それが不可避的に生む廃物の始末の手段を持たないからである。日本には現在 52 基、世界には 400 基を超える原発が稼動しているが、それらが生み出す膨大な核分裂生成物をどう始末したらいいのか、原子力開発が始まって半世紀たった今なお分からない。生み出す廃物の後始末も知らないまま、とにかく利便だけを求めて走ってきてしまった愚かさに暗澹とする。
ただ、廃物の始末をどうするかという問題に加えて、原子力発電にはもう一つ深刻な問題がある。運転中の原発での事故である。原発が機械であり、人間が誤りを犯す存在である以上、原発とて事故と無縁ではいられない。そして、原発の内部に蓄積している放射能が想像を絶するほど厖大であることが、この問題の核心である。

3 thoughts on “小出裕章

  1. shinichi Post author

    事故確率の評価について

    この件については、改めて書くほどのことはない。原子力発電所のように複雑なシステムにおいて、 滅多に起こらない巨大事故の発生確率を評価することには多くの複雑さが付随してしまうため、絶対 値としてその値を確定することはできない、というのがこの問題にかかわる学者・専門家の一致した 見解である。私自身も確率論的な評価を無意味だなどと言っているのではない。これも専門家の一致 した見解であるが、システムのどの部分に安全上の弱点があるかを評価し、その弱点の改良によって どの程度事故確率を減らせるかという相対的な評価に利用してこそ、この学問が役立つのである。

    もう一つ追加して指摘しておこう。NUREG-1150 では、米国内の5基の原子力発電所(サリー(PWR、 3ループ)、ザイオン(PWR、4ループ)、セコイア(PWR, ドライコンデンサー)、ピーチボトム(BWR、 MARK-I格納容器)、グランドガルフ(BWR、MARK-III格納容器)について確率論的安全評価を適用 しているが、「評価結果は極度に個々のプラントに依存している」、「炉心損傷確率あるいはリスク評価 の定量的な結果は、類似の設備を持ち、設計・建設者が同一であったとしても、他のプラントには適 用してはならない」(p.13-2)と繰り返し述べている。当然、NUREG-1150 の評価値を日本の原発に 適用することなどできないし、間違っても日本の原発について「杞憂といえるほど発生確率の低い事 故」などというようには使ってはならないのである。

    当然のことながら、日本で原子力を進めようとするのであれば、日本の原発について独自に確率論 的安全評価の研究を進めなければならない。ところが、原子力研究の後進国である日本では、そのよ うな研究もまた大幅に遅れている。確率論的安全評価にはレベル 1 からレベル 4 まで 4 段階の評価が ある。NUREG-1150 では、「頻度は低くても巨大な地震がリスクに主要な寄与をする」(p.1-4)ことか ら、サリー原発とピーチボトム原発についてはじめてレベル4までの評価をしようとした。しかし、 「地震による影響を評価する手法は現在開発段階にある」(p.1-4)として、ついに地震を起因とする事 故の評価はできなかった。この学問はそれほど難しく、また難問を抱えている。その上、日本では未 だにレベル1の評価すらまともにできていないし、世界一の地震国として本来ならなされなければな らない地震を起因とする確率論的評価など完璧にゼロなのである。

    レベル – 内容
    1 – 炉心損傷確率の評価
    2 – 施設外への放射能放出までの評価
    3 – 周辺での被害を含めての評価
    4 – 外部事象(地震など)を原因とする事故も含めた評価

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