松本隆

誰かを真似したような「亜流」を作らないことが、自分のプライドでした。僕の詞を歌うことでそれぞれの歌手が全く違った個性の生命体として輝けるとしたら、とても嬉しいことです。
今までに2000作品以上を作ってきて感じるのは、コツコツと作品を積み重ねていく姿勢がとても大事だということ。人間っていきなり大きな岩を置くことはできないけど、小さな石を丹念に積んでいけば、後世に残るようなピラミッドや古墳を作れるかもしれないんです。
10年前からは、シューベルトの歌曲集を口語訳する仕事にも取り組んでいます。日本ではクラシックなどの古典芸術を「神棚」に飾って拝む傾向があって、以前から違和感を感じていました。
ある評論家が「50歳以下の人間は、“冬の旅”を歌っちゃいけない」って言ってたんだけど、作った本人のシューベルトは31歳で死んでるから矛盾してるよね(笑)。生身の人間が作った作品を神格化して祭り上げるようなことをしていると、芸術が自分で自分の首をしめるようなものです。
「他に誰もやらないなら、自分がやるしかない」と思って歌謡曲の仕事を少し休んで、現代の言葉で新たな訳をつけました。
一般的には、クラシックの作曲家は生前あまり評価されていなくて不遇だったみたいなイメージがあるけど、モーツァルトも「魔笛」という作品を大衆劇団と作ったりして、同時代の大衆からそれなりに支持されていたようです。
僕にとってのシューベルトは、元祖“ヒッピー”な存在(笑)。
定職につかないでぶらぶらして、酒代がないから代わりに譜面を置いて帰ってきちゃう、みたいなエピソードもあるし。
今から100年以上前に亡くなった素晴らしい作曲家の作品に言葉をつけることで、また新たな血が通うような気がして新鮮な気分になります。

2 thoughts on “松本隆

  1. shinichi Post author

    (sk)

    松本隆が、あの悪名高い社団法人の会員だったとは。。。
    それとも、日本の作詞家は、みんな会員?

    そんなことはともかく、松本隆はすごい。
    ある年齢に達して、みんな、みずみずしい感性を仕舞い込み、もっともらしくなってしまう。そんななかで、ひとりだけ、上品で心に響く言葉を紡ぎ続けている。

    私にみずみずしい感性は残っているか? それとも、もっともらしくなってしまったのだろうか。

    Reply

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *