私は今年七十四歳を迎えたが、この年になって世の中が前より一層よく見えるようになった気がする。視覚能力が向上したわけではない。雑多なもの、どうでもいいものは、最初から意識的に排除して、目の前にあっても見えないようにすることで世の中がよりよく見えるようになったということだ。脳に入る視覚シグナルに有意味・無意味フィルターをかけて、自分にとって無意味と思われる情報は最初から一括して高度情報処理系にまわさず、ノイズとして捨ててしまうのだ。 。。。 年をとればとるほど、無関心領域はさらにふえ、かつてかなり関心をもってウォッチしていた政治経済の動きすら、最近はかなりどうでもいいとみなすようになってきた。一般に情報系は流れる情報のSN比(シグナル・ノイズ比)を高めれば高めるほど、シグナルの明晰性が高まるのだ。
四次元時計は狂わない
21世紀 文明の逆説
by 立花 隆
いま現在、世界で最も精確とされ、世界標準時刻を刻むのに用いられているのは、セシウム原子時計。ところがこの時計は数千万年に一秒くらい狂う。千万年を秒でかぞえると、十の十五乗だから、これを時間精度十五桁という。光格子時計は、理論的に十八桁の精度を出せる。一挙に千倍も精度がアップするのだ。
世界標準時刻設定の大本のところでは、これまでにないスケールの大激戦が繰り広げられているわけだ。これまで、精度を一桁上げるのに十年かかるといわれてきたが、光格子時計は、それを一挙に三桁上げて、究極のステージまで上がろうとしている。そのとき時計は時計以上のものになり、日本はもう一つの世界一を持つ。