ドナルド・キーン

義政が育んだ文化は義政自身の人生を豊かにしたばかりでなく、日本人すべての人生を豊かにしたのだった。我々は義政が行動に出ようとしなかったこと、つまり一方に味方することを拒否したことに一人の衰弱した暴君を見るのではない。むしろそこに見ていいのは、自分を取り巻く終わりのない紛争に解決を見つけることを断念した一人の教養人の姿である。義政が東山に建てた山荘は、ふつう銀閣寺という名前で知られている。もっとも、それは(義満の金閣寺と違って)銀箔で飾り立てられていたわけではなかった。この名前が暗示しているのは、義光の黄金時代ほど光り輝いてもいなければ色彩鮮やかでもない一つの時代である。義政が好んだ芸術―――茶の湯、水墨画、能―――は、燻し銀のように控えめな気品を備えていた。

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