西垣通

情報という概念については、いまだ広く社会的に認知された唯一の定義が存在するわけではない。そのため、単なる断片的な「データ」と等値される場合も少なくない。だが学問的には、情報は物質やエネルギーと並んで、宇宙における根源的な概念ととらえることができる。情報を効率的に処理するコンピュータなどの機械が出現したのは20世紀だが、情報そのものははるか以前から存在している。
物質やエネルギーの存在はビッグバンによる宇宙生成まで遡るが、情報が誕生したのは地球上に生命が出現した約38億年前のことである。すなわち、情報とは生物現象と不可分の存在と考えられている。生物(個体のみならずその系統)は、生き残るために何らかの「意味」や「価値」を作りだす。逆に言えば、生物は生きる上で、刻々、特定の事柄を選択しそれ以外の事柄を忘却し続けていくが、選ばれた事柄が「意味」や「価値」(または少なくともその候補)となるのである。生物は自己言及的存在であり、過去に自己ないし自己の祖先が行った選択の結果にもとづいて食物採集や生殖行動などの選択行動を続けていくが、進化のプロセスで成功し生き残った生物は、その選択した事柄に「意味」や「価値」があったということになる。このように、「意味」や「価値」とは、何らかのイデアとして先験的に与えられるのではなく、生物の行動とともに歴史的かつ自己言及的に形成されるものなのである。このことは単純なバクテリアから複雑な言語をもつ人間まで、基本的に同一である。
生物が選択行動を行うとき、具体的にはある「パターン」が選び取られる。意味や価値を持つこのパターンこそが、「情報」という概念を支える存在なのである。パターンとは哲学的には「形相」であり、質量をもたない。それは生物の認知活動に伴って出現するが、その出現の仕方は、生物種(さらには個体)によって無限に異なる。あらゆる事物には物質的側面と情報的側面があり、生物はそれぞれ特有の環境世界の中で生きているのである。

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