宋文洲

なぜここまできれいごとを嫌うかというと、中国の文化大革命を経験したからです。数億人が十年間にもわたってきれいごとを言い合い、人間としてのあらゆる不道徳を革命や毛沢東思想で包み込み、他人を害し、社会を害し、最後は自分も害しました。その壮大なきれいごと社会が人間社会にもたらした壮大な悲劇を体験したからです。
なぜ90年代初頭から急に成長が止まり、20年間にもわたってその成長を止めたのでしょうか。私は日本社会が本音を言わず、きれいごとばかりにはまったのが重要な原因だと思うのです。きれいごとを言うから本質を見失い、本質が見えなければ戦略もビジョンもありえないのです。
きれいごとになれた社会には評論家が大量発生します。きれいごとが武器となり、他人を攻撃する時も自分を防衛する時にもこれを使うのです。きれいごとを言っているうちに自分が偉くなる気分になり、世の中のマイナス面は全部ほかの誰かのせいで、自分だけが正しい気分になります。実際に税金を払う人がどんどん少なくなり、実体経済がどんどん悪くなるのです。
きれいごとをやめないと本質が見えてきません。きれいごとをやめないと個人が自立できません。きれいごとを言い合っても世の中は何一つ変わりません。

2 thoughts on “宋文洲

  1. shinichi Post author

    私はきれいごとが大嫌いです。したがってきれいごとをよく口にする人間も大嫌いです。

    きれいごとは立派な嘘です。普通の嘘よりも酷いのです。普通の嘘なら見破るとすぐ反論できますし、騙されないように自分から逃げることもできます。しかし、きれいごとは国家、天下、倫理、道徳などの立派な隠れ蓑の下で人の意志をレイプする行為です。

    嘘が泥棒であれば、きれいごとは強盗なのです。

    私はなぜここまできれいごとを嫌うかというと、中国の文化大革命を経験したからです。数億人が十年間にもわたってきれいごとを言い合い、人間としてのあらゆる不道徳を革命や毛沢東思想で包み込み、他人を害し、社会を害し、最後は自分も害しました。その壮大なきれいごと社会が人間社会にもたらした壮大な悲劇を体験したからです。

    その反省からトウ小平が「事実求是」と訴え、「文革」の定説と偽善を打破したからこそ、私のような迫害を受けてきた人間も政府派遣の公費留学生にもなり、皆さんの国に来てこうして日本語で皆さんと議論できるようになりました。幸い、日本は文化大革命がありませんでした。だから日本は高度成長を成し遂げ、世界の優等生となりアジアの奇跡と言われました。

    しかし、その日本はなぜか90年代初頭から急に成長が止まり、奇跡のように20年間にもわたってその成長を止めたのでしょうか。

    いろいろな人がいろいろな角度から解説を試みているのですが、私は日本社会が本音を言わず、きれいごとばかりにはまったのが重要な原因だと思うのです。きれいごとを言うから本質を見失い、本質が見えなければ戦略もビジョンもありえないのです。

    我々の身の回りを観察してみましょう。社内会議なのに「……すべきなのではないか」という人がいませんか。裁判官のように偉そうに言っていませんか。「主語を入れて主観を入れろよ」と思いませんか。

    テレビや新聞によく出る評論家を観察しましょう。昨日も一昨日もA新聞からもBテレビからも聞いたような無難なきれいごとを言っていませんか。立派で誰にも非難されませんが、その分つまらなくて心に残りません。

    きれいごとになれた社会には評論家が大量発生します。きれいごとが武器となり、他人を攻撃する時も自分を防衛する時にもこれを使うのです。苦労せずきれいごとを言っているうちに自分が偉くなる気分になり、世の中のマイナス面は全部ほかの誰かのせいで、自分だけが正しい気分になります。実際に税金を払う人がどんどん少なくなり、実体経済がどんどん悪くなるのです。

    なぜ国債は2000兆円近くも累積されてきたのだろうか。理由はきわめて簡単です。払った税金より使った税金がはるかに多い人がたくさん居るからです。そんな人が多いほど国家が成長しなくなり、ビジョンも立てられなくなります。そのくせに国がしっかりしないから政治家がビジョンを持たないから、我々が頑張れない、元気がないという人々がいます。これはもう最大、最悪なきれいごとです。

    仮に国にビジョンがなくても、それがあなたの頑張れないことと何の関係があるでしょうか。国のビジョンの下で頑張るのはそれこそ中国の文化大革命であり、日本の軍国主義ではありませんか。

    きれいごとをやめないと本質が見えてきません。きれいごとをやめないと個人が自立できません。きれいごとをやめないと日本は元気を取り戻せません。「きれいごと」を言い合っても世の中は何一つ変わりません。

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