紫式部

いづれの御時にか、 女御、更衣あまた さぶらひたまひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて 時めきたまふありけり。
はじめより我はと 思ひ上がりたまへる御方がた、 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは、 ましてやすからず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、 恨みを負ふ積もり にやありけむ、いと 篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、 いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人の そしりをも え憚らせたまはず、世のためしにも なりぬべき御もてなしなり。

2 thoughts on “紫式部

  1. shinichi Post author

    源氏物語

    第一帖 桐壺

    いつの天皇のときだったか忘れちゃったけど、むかしある天皇に身分の高いお妃さまがたくさんいてね、でもその中で一人だけ特に高貴じゃないのに天皇が溺愛してる女の人がいたわけ。

    自分こそはっていう感じの気位の高いまわりの女たちは、はじめからこの女のことを、分不相応な者だと見くだしたり嫉んだりしたのね。その女と同じかそれより低い身分の女たちは、さらに心が穏やかではなかったの。朝晩のお仕えにしても、周囲に不快な思いをさせて、嫉妬を受けることが積もり積もったせいなのだろうけど、ひどく病気がちになってしまい、どこか心細げにして里に下がっていることが多いのを、帝はますますこの上なく不憫なことだとお思いになって、誰の非難をもお構いになることがなく、後世の語り草になりそうなほどの扱いだったって。

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  2. shinichi Post author

    「源氏物語」って結局どんなお話なの?

    人文学部教授・山本淳子先生に教えてもらった

    京都学園大学

    https://www.kyotogakuen.ac.jp/admissions/ITMT/saeri/junko/

    こんにちは、ライターのさえりです。

    みなさん、「源氏物語」ってご存知ですか? 「光源氏」が出てくる物語で、なんだか色っぽい恋沙汰がたくさん描かれている、そう、アレです。

    ……と、「アレ」でごまかしてしまうほど、わたしは源氏物語のことをほとんど知りません。興味はあるものの「古典」に触れる機会がなく、25年間も生きてきてしまいました。

    知らなくても生きていけるけれど、でもあれだけ有名な物語をこの年になって「読んだことない」「よくわかんない」なんていうのも問題な気がしてきました。スマホをスクロールしているみなさんは、ちゃんと読みましたか?

    今回、京都学園大学で源氏物語を研究している先生がいるということで色々とお話を伺ってきました。この機会に源氏物語とは何かを学んじゃいましょう。

    今回お話しを聞かせてくれたのは、京都学園大学の山本淳子先生。


    **

    源氏物語ってなんなの?

    Q:「源氏物語」ってアレですよね。あのー、光源氏がいて、たくさん恋人がいる話。

    先生:ざっくりしすぎですね(笑)

    Q:すみません……。よく知らなくて。昔漫画版「あさきゆめみし」は読んだんですが、なんか子供が読むとドキドキしちゃうような妖しいシーンが多いっていう記憶ばっかり残っていて……。

    先生:たしかに、かなり生々しいですよね。

    Q:あれは、完全なフィクションなんですか?

    先生:そうですね。紫式部という人が1000年以上前に書いたフィクションです。でも、現実にあった出来事を交えながら物語を進める、というような形式ですね。当時、紫式部は旦那さんを亡くして、気を紛らわすために源氏物語を書いたんじゃないか、と言われているんです。

    Q:そうだったんですね。源氏物語って結局どんな話なんですか?

    先生:はい。源氏物語は、“恋”を通じて光源氏が本当の光を見つける物語なんです。

    先生:まぁもっと簡単に言えば、ちょーモテ男の光源氏は実は心に深い闇を抱えていて、若いころから憂さ晴らしにブイブイ言わせまくるんですけど、最後に「俺の人生って一体?」ってなる、みたいな。

    Q:あぁわかりやすい。ぜひ、もう少し詳しくストーリーを教えてください!


    源氏物語のストーリーをおさらいしよう

    先生:まず書き出しですが「いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれてときめきたまふありけり」と書かれているんです。(わからん)

    先生:どんなことが書いてあるのかというと、「いつの天皇のときだったか忘れちゃったけど、むかしある天皇に身分の高いお妃さまがたくさんいてね、でもその中で一人だけ特に高貴じゃないのに天皇が溺愛してる女の人がいたわけ」、と書かれています。

    Q:おぉ、なるほど! 身分が低いのになぜかめちゃ愛されていると。

    先生:そうです。その奥さんの名前が、“桐壺”といいます。そして二人の間に生まれたのが「光源氏」です。幼い時から万事優秀な子で、「光」というニックネームがつけられます。

    先生:でも、桐壺の身分が低かったために、天皇の子供なのに天皇になる進路が閉ざされているんです。

    Q:身分が全てな世の中だったんですね。

    先生:そう。切ないですよね。そのうえ光源氏が3歳の時に、桐壺は死んでしまいます。それでどんどんグレてしまって、心に闇を抱えるんですよね。

    先生:とにかく鬱屈した光源氏でしたが、彼の特殊な能力は恐るべき「恋愛力」だったんですね。

    Q:恋愛力……!

    先生:そうです。優しく、言葉たくみな美青年。にこっと笑うとみんなが嬉しくなってしまうような、そんな愛嬌があったと書かれています。男らしい顔立ちという感じではなかったようですね。年上の女性にものすごく好かれたそうです。

    Q:(現代だったら絶対ゆるふわパーマ男子だ)

    先生:そんな光源氏は10歳の時、新しくきた天皇の奥さん「藤壺」に恋をしてしまうんです。義理の母に恋をしたということですね。

    先生:死んでしまった「桐壺」、そしてその後愛情を注いでくれた「藤壺」。この二人の姿を追い求めて、光源氏はたくさんの恋をするんです。

    Q:ようするにマザコンですか?

    先生:……まぁそうですね。それでたくさんの恋をするんですけどね、若くてグレまくってたときなんかはとにかくひどくて「隣の部屋になったから襲っちゃった」とか「なんかいいなと思ったから」みたいな感じで遊びまわっちゃうんですよね。

    先生:年上ばかり狙って恋をしていたようですが、たくさんの女性と色々あっても光源氏の心は満たされないんです。どこかいつも寂しくて、自分の身分を憂いていて。

    Q:そっか。お母さんは早くに死んじゃってるし、天皇にはなれないし。鬱屈した気持ちを晴らそうにも晴れない。あぁかわいそう、守ってあげたい。

    先生:そう、まさにそんな感じで女の子たちが次々落ちちゃうんですよね〜。

    Q:……危ない。その時代に生きていなくてよかったです。

    先生:それで、ある日「藤壺」の姪っ子である「紫の上」に会うんです。会うといっても、光源氏が遠くまで旅をしたときに、たまたま「スズメが逃げちゃったよ〜」と泣きながら飛び出してきた10歳の女の子が「紫の上」で、その子に光源氏は恋心のようなものを抱いちゃうんですよね。

    先生:それで紫の上を連れてきて、成人してから自分の妻にしたんです。

    Q:亡き二人の母の姿を思い描いて連れてこられた「紫の上」……。

    先生:でもそのころ同時に、溢れる恋心を止められず義理の母である「藤壺」をついに襲っちゃうんですよね〜。

    Q:えっ! 義理のお母さんなのに!?

    先生:そうです。しかも大変なことに、妊娠させてしまうんです。

    Q:うわぁ……昼ドラよりもドロドロしてる。

    先生:もう、ドロッドロですよね。藤壺はもう悩みに悩んで、でも誰にも言えなくて、そのうち時は流れ、赤ちゃんが生まれるんです。世の中全員に隠しとおして、天皇の子供として生まれたその子供は「冷泉」といい、彼はやがて“天皇”になるんです。

    Q:あぁ、光源氏は天皇になれなかったのに、自分の子供が密かに天皇になってしまうんですね……。

    先生:そう。自分は天皇になれなかったけれど、自分の子供が天皇になった。

    先生:それは光源氏にとってもちろん苦しく辛い事でもありますが、ある種の誇らしいリベンジでもあったと思います。それにいつしか冷泉に出生の秘密をしられ、天皇にはなれないものの「上皇」という立場ですごい権力を持つようになるんです。

    先生:世の中の仕組みのせいで押さえつけられてきた光源氏が、がむしゃらに恋愛をしていくうちに最終的にすごい権力を手に入れることができた。これは光源氏にとって、思ってもみない出来事だったと思います。

    Q:なるほど。偉くなるのが生きがいみたいなかんじだったんですね……。でも、それで光源氏は幸せなんですか?

    先生:そう、そこなんです。一瞬は幸せを手に入れたって思うんですよ。でもね、連れてきた紫の上をはじめ、光源氏の周りにいる女性たちがどうにもこうにも幸せじゃないことが多いんです。物の怪に取り憑かれて死んでしまったり、病んでしまったり。

    先生:しかも、自分の新しい奥さんを若い人に取られてしまうんです。

    Q:がーん! 自分がやったことと同じことをされてしまったわけですね?

    先生:そう。そこではじめて「あぁ、自分が今までしてきたこともこんなにわるいことだったのか」と気づくんです。

    先生:「自分は『光の子』と呼ばれて心の赴くままに恋愛をしてきたけれど、それは周りの人にとってはただの暴力だったのではないか? わたしが持っていると思っていた『光』はすべて『煩悩の光』だったのだ」と気づくんです。

    Q:自分自身についてそこでようやく知ることができた、と。

    先生:そう。それで、最終的には「仏の光」を目指して出家して、世の中から姿を消すんですよね。

    先生:これが第一部の終わりです。この先も物語は続くのですが、そこでは光源氏が死んだあとの世界について書かれています。ざっくりですが、あらすじはこんなかんじですね。

    Q:ふーむ。昼ドラよりも面白そう……。


    源氏物語が書かれた時代の「恋」は?

    Q:女性がすごく我慢を強いられて男性は自由に恋愛をしている、そんな時代だったんでしょうか……?

    先生:いえ、そんなことはないですよ。我慢をしなきゃいけない身分の人もたくさんいましたが、結婚の絡まない単なる恋人同士の場合は、女の人が二股かけたり男と喧嘩をしたりという話も記述されているので、恋はものすごく自由だった時代のはずです。

    Q:へぇ! じゃあ、結婚しちゃうと大変、ってかんじだったんですね。

    先生:そうですね。奥さんにも二種類あって一つは本妻、もう一つはステディな関係ってやつですね。後者はずっと待っていなきゃいけないので大変だったと思います。

    Q:ステディ……。

    先生:そう、「君をステディにするよ」といわれて、3日間連続でデートしたら「夫婦になろうね」ってことなんです。このステディな関係は待っていなきゃいけない辛さもあるんですが、ランキング2位の奥様だというふうに見られるので、嬉しいことでもあるんですよね。

    Q:女の人は、2番でも3番でも別に構わないってかんじなんですか?

    先生:生活がかかってますからね。

    Q:(やだな)

    先生:仕組み的に、お金持ちな人は何人も妻を持つ事ができて、ステディな人に関して面倒をみるよ、ということですから。

    先生:逆に本妻はほとんどの場合、政略結婚です。妻の家庭がものすごく裕福で、旦那に対して援助を行なっているんですよね。だから本妻はめちゃくちゃ強くて、文句も言えるし喧嘩もできる。だいたいの場合家の都合で結婚していますが、別れるようなこともないですね。

    Q:ふぅん……。なんだか本妻もステディな妻も、それから旦那も、みんなちょっと窮屈そうですね。

    先生:そうですね。“恋人”であるうちは幸せなんですが“結婚”となるとなかなか難しい時代だったかもしれません。それに、退屈な時代だったとも思うので、家に旦那さんがいない日なんかは特に思い悩んでいたでしょうね。


    出てくるキャラクターは私たちと似ている

    Q:退屈な時代だったらなおさら恋の事ばっかり考えちゃいますよね……。

    Q:そういえば、わたしは嫉妬のあまり生き霊となって出てくる六条の御息所という人が好きです。

    先生:あぁ、光源氏よりかなり年上の、未亡人ですね。

    Q:そうそう。なかなか光源氏がこなくて、一人静かに思い悩んで、思い悩むあまり生き霊になって光源氏の周辺の女の人を苦しめてしまって自分を恐れたりする、あの六条の御息所。

    Q:わたしあの時代に生きてたら、生き霊になってたんじゃないかって思うんですよね。

    Q:だって、夜も早くに暗くなってしまうし、お屋敷から出る事は滅多にないし、大好きな彼はいつ家に来るかわからないし。そしたら花を愛でるか生き霊になるかしかないでしょ?

    先生:そうかもしれませんね(笑)。六条の御息所は、裏キャラみたいなかんじでものすごく人気があるんですよ。みんな、どこか共感するのかもしれないです。

    Q:ちなみに、先生が好きなキャラクターは誰ですか?

    先生:私は、源氏に幼いころに連れてこられた「紫の上」ですね。

    Q:紫の上はずっと耐え忍ぶような生き方だったんじゃないですか? 身分が低いから本妻にはなれないし、幼いころに連れてこられてしまうし。

    先生:そう。子供のころは伸び伸びと生きていたのに、大人になって光源氏の価値観にあわせて生きるようになるんですよね。そうじゃないと、自分が経済的に生きていけないから。すがるように生きるんです。

    先生:全部人に合わせてわたしはなにもわからない。なんにも自由にしちゃいけない。こんなので人生の幸せがあるのだろうか、と思い悩むんです。

    先生:最後のほうは「女ほどあわれなものはない」とまで、いうんです。

    Q:うぅ、悲しい……。

    Q:そんな紫の上を好きな理由は……?

    先生:可愛らしいからというのもあるんですけど、反面教師的な意味合いもあります。

    先生:紫の上は最後の最後に、「わたしはもういいから、このあとに続く人たちだけでもぜひ自分の生き方を考えて欲しい。わたしみたいにならないでほしい」と、女の子たちにエールを送ってるんですね。

    Q:なんだかぐっとくるものがありますね……。

    先生:そう。現代に通じるものがあります。自分の意志だけでは生きられなかった悲しみがあって、でも最後まで、意思を強く持って生きたいと願っていた。

    先生:わたしたちの時代は恵まれていますから、自分の意思である程度人生を変える事ができる。紫の上を見ていると、弱気になってしまったときに「自分の意思を持って生きなきゃ」って思えるんです。

    Q:じーん……。1000年も昔に書かれたものが今のわたしたちに勇気をくれるなんて、すごい。

    先生:そうです。そこがこの源氏物語のすごさです。

    Q:今も昔も変わらない人間の心の動きを描いた紫式部……すごいな。


    最後に

    先生:男も女もそれぞれに事情がある。誰も皆、辛い。特に恋においては。

    先生:源氏物語は、そんなことを感じさせてくれる作品です。

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