室生犀星

「おじさま、いい考えがうかんだのよ、おじさんとあたいのことをね、こい人同士にして見たらどうかしら、可笑しいかしら、誰も見ていないし誰も考えもしないことだもの。」
「そういう場合もあるだろうね、乞食のように生きてゆくひとは、犬や猫と生涯をおくることもあるからな、犬や猫は寝ていると女くさくなってゆくけれど、金魚とは寝ることが出来ないしキスも出来はしない、ただ、きみの言葉を僕がつくることによってきみを人間なみに扱えるだけだが、まアそれでもいいね、きみと恋仲になってもいいや、僕には美しすぎた過ぎ者かも知れないけれど、瞳は大きいしお腹だけはデブちゃんだけれどね。」
「あたいね、おじさまのお腹のうえをちょろちょろ泳いでいってあげるし、あんよのふとももの上にも乗ってあげてもいいわ、お背中からのぼって髪の中にもぐりこんで、顔にも泳いでいって、おくちのところにしばらくとまっていてもいいのよ、そしたらおじさま、キスが出来るじゃないの、あたい、大きい眼を一杯にひらいて唇をうんとひらくわ、あたいの唇は大きいし、のめのめがあるし、ちからもあるわよ。」

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