室生犀星

私はすべて淪落の人を人生から贔屓にし、そして私はたくさんの名もない女から、若い頃のすくひを貰った。學間や慧智のある女は一人として私の味方でも友達でもなかった。碌に文字を書けないやうな智恵のない眼の女、何処でどう死に果てたか判らないやうな馬鹿みたいな女、さういふ人がこの「蜻蛉の日記」の執筆中に、机の向う側に坐つて笑ふ事も話をする事もなく、現はれては朦朧たる姿を消して去った。私を教へた者はこれらの人々の無飾の純粋であり、私の今日の仕事のたすけとなった人々もこれらの人達の呼吸のあたたかさであった。

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