森内昌子, 森内浩幸

ヒトの平均寿命が50 歳を過ぎたのは先進工業国においてすら、つい一世紀前のことである。長い進化の歴史の中では、50 歳を越す例外的に長命の人のさらに20人に一人がかかる病気である。病原性は限りなくゼロに近かった。長寿の今だからこそ、無視できない意味合いを持つのである。現代医学を以てしても非常に予後不良の疾患の発症を予防するために最も効果的な方法は、キャリア母体からの母乳哺育を止め、児のキャリア化を防ぐことである。
ところで、両者の関係はウイルス側からみても悪い方向に行っている。実はこのウイルスは自然減の途上にあるみたいなのだ。元々ヒトは 2 歳くらいまでは完全母乳哺育を行い、4 ∼ 5 歳くらいまでは母乳を飲んでいた。・・・今では5ヵ月頃から離乳食を開始し、平均 10 カ月頃までには卒乳するので、ウイルスにとって伝播のチャンスが少なくなってしまった。長崎県のデータは授乳期間の長さが母子感染率に大きくかかわることを示した(感染率は長期母乳>短期母乳>完全人工栄養の順)が、実はこのウイルスは私たちの生活の変化に伴う自然発生的な「短期母乳」効果で、キャリア率は年々減ってきているのだ。
・・・生物学的な進化の歩みに比べて、私たち社会の変化は著しく、共進化してきたはずの微生物との間にすれ違いや軋みが生じている現状は、今後どのように展開していくのだろうか?次の世代に思いを馳せると嘆息が絶えない。

母子感染するウイルス:共生か矯正か(PDF ファイル)

2 thoughts on “森内昌子, 森内浩幸

  1. shinichi Post author


    CMV

    https://ja.wikipedia.org/wiki/サイトメガロウイルス

    CMV(サイトメガロウイルス)は、宿主細胞の核内に光学顕微鏡下で観察可能な「フクロウの目(owl eye)」様の特徴的な封入体を形成することを特徴とするヘルペスウイルスの総称である。ウイルスの分類上はサイトメガロウイルス属とし、この場合ヒトを含む霊長類を宿主とするものに限るが、総称としては近縁で齧歯類を宿主とするムロサイトメガロウイルス(murine cytomegalovirus;MCMV)も含める。

    ヒトに感染するのはヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus;HCMV)で、これはヒト以外の動物には感染しない。HCMVの学名はヒトヘルペスウイルス5型(human herpesvirus-5;HHV-5)である。

    この項では主にこのヒトサイトメガロウイルス(HCMV)について記述し、ウイルス学の項以外では簡単のためサイトメガロウイルス(CMV)と略して呼称する。

    CMVは通常、幼小児期に唾液・尿などの分泌液 を介して不顕性感染し、その後潜伏・持続感染によって人体に終生寄生することで人類集団に深く浸透している。日本では、成人期での抗体保有率は 60 % 〜 90 %と高い。

    健常人では脅威とならないが、免疫の未熟な胎児・免疫不全状態の臓器移植・AIDS患者・免疫抑制療法などではウイルス増殖による細胞及び臓器傷害で生命を脅かす。

    先天性感染(胎児の際の母子感染)を起こすと、そのうち日本では約 20 %が子宮内発育遅延・肝脾腫・小頭症などの顕性感染を呈し、残りの 10 〜 20% の不顕性感染児で発育期に感音性難聴や精神発達遅滞等の機能障害を生ずる。

    CMVは免疫の老化(疲弊)と関わっており、加齢に伴ってCMV以外の感染症に対する防御能の低下をきたす。

    またCMVが腫瘍細胞に感染すると、腫瘍細胞が腫瘍免疫や抗癌剤に対する抵抗性を獲得して悪性度を増す可能性がある(oncomodulation)。

    1990年には Chee らによってHCMV の全塩基配列が決定されている。有効なワクチンは開発されていない。


    HTLV

    https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒトTリンパ好性ウイルス

    HTLV(ヒトTリンパ好性ウイルス)は、レトロウイルスの一種。HTLV-I(成人T細胞白血病 (ATL) の原因ウイルスとして知られる), II, III, IVがある。

    特にHTLV-Iは最初に発見された疾患を起こすヒトレトロウイルス。類縁ウイルスにサルに感染するsimian T-lymphotropic virus (= STLV) がある。

    宿主であるヒトのT細胞内では核内に移行し、ウイルスのRNAからcDNAを逆転写により生成し、cDNAは宿主ゲノムDNAへインテグレーション (integration) する。integration siteはランダムで決まってはいない。組み込まれたウイルス由来DNAからウイルスRNA全長のmessenger mRNA (gag,pol mRNA) を生成する。全長mRNAはスプライシング (splicing) を受け、env mRNAとなる。env mRNAはさらにスプライシング (secondary splicing) を受けpX mRNAとなる。px mRNAは複製制御を担うp40tax/p27rex 蛋白をコードする。 これらのgag-pol, pX 各mRNAは、異なるopen reading frame(ORF)を持つため、もとのウイルスゲノムRNAが一本であっても、それぞれのmRNAは異なった蛋白をコードすることができる。感染T細胞は必ずしも死滅するわけではない。そのため、T細胞から別のT細胞へ感染するほかに、感染したT細胞の増殖によるウイルス増殖もみられる。

    HTLVはフリーのウイルス粒子による感染は効率が非常に悪いので、ウイルスの感染には、感染細胞と非感染細胞の細胞間接触が必要である。


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