趙瑋琳

テクノロジーの進化とデジタル化によって、既存のモノやサービスに新たな価値がもたらされている。また、デジタルエコノミーの発展が加速し、より効率性や利便性の高い社会の実現につながっている。ただ、現在のGDP指標では計測しきれない部分が多いため、デジタルシフトが進む中国経済の全体像と実情を把握するのは一層難しくなってきた。
もちろん、小康社会の実現の基礎になるのは経済的な豊かさに他ならず、経済成長は依然として重要性が高い。だが、小康社会の概念には、貧困撲滅など経済的な側面以外に、社会の発展や法制度、文化、教育、生活の質など、国民の関心が極めて高い分野も多く含まれている。つまり、小康社会は経済発展だけでは実現できない。中国のGDP成長率が今後も鈍化し続けていく可能性を考えると、教育水準の向上や、より安全・安心な社会の構築など、経済以外の側面を最優先の目標にすべきだろう。

One thought on “趙瑋琳

  1. shinichi Post author

    中国経済を「GDP成長率」で語ることの限界
    政府は2020年まで6%維持を目指すが…

    by 趙 瑋琳

    https://toyokeizai.net/articles/-/325639

    2020年は日中両国にとって重要な節目の年だ。日本では東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、大いに盛り上がることが期待されている。中国にとっては第13次5カ年計画(2016年-2020年)の最終年であり、経済成長の減速に歯止めをかけねばならず、景気の行方から目が離せない。さらに4月には習近平国家主席の訪日が予定されている。

    一国の経済活動を測る指標としては、GDP(国内総生産)がよく用いられる。中国は1978年の「改革・開放」以降に驚異的な経済成長を遂げ、GDPは右肩上がり。2010年にはついに世界第2位の経済大国となった1人当たりGDPも2019年には1万ドル超にまで飛躍的に伸びた。中国人の生活水準は確実に向上している。しかし近年、GDP成長率は鈍化傾向が続く。2019年のGDP成長率は前年比+6.1%と、プラス成長ではあるものの1991年以降では最低の水準だ。

    中国の貧困人口は約1660万人
    中国政府は従来の大量投資・輸出主導の経済発展モデルから脱却し、「質の成長」を求める新しい未来像を描き出そうとしている。2017年秋に開催された共産党大会では、包摂的な成長と質の高い発展の実現を目標とする方針が示された。その一環として、2020年に小康社会の実現を目指し、2020年のGDPを2010年比で倍増することや、貧困撲滅に向けた取り組みに注力している。

    前者のGDP倍増を達成するため、2020年までGDP 成長率6%台を維持しようとする姿勢は変わらない。後者の貧困撲滅の場合、ここ数年、貧困地域にも経済成長の果実をもたらすよう、移住推進や教育の整備、産業支援など多くの対策を打ち出してきた。その結果、中国の貧困人口は2012年の約9900万人から、2018年には約1660万人まで減少している。

    さらに、2019年12月中旬の中央経済工作会議で公表された2020年の政策方針では、経済政策を安定的に保ちながら、貧困脱却を最優先するスタンスが明らかにされている。総じて、中国政府にとっては、GDPの拡大、すなわち経済成長が依然として重要な課題である。

    一方、世界ではGDPの限界に関する認識が広まりつつある。早い例ではブータンが、1970年代からGDPのような経済成長を重視する指標を見直し、国民総幸福量(Gross National Happiness、GNH)の考え方を打ち出した。GNHは伝統や社会、文化、環境保護などの指標を取り入れた、生活の質や社会の発展度合などを測る新しい尺度で、幸福の実現を目指そうとする考え方である。

    幸福に関する明確な定義はないが、一般的には所得などの客観的指標と、心理的側面を重視する主観的指標の両面から評価することが多い。GNHが提唱されて以来、経済成長と幸福度の関係性などに関する議論が活発になされており、これまでに多くの団体や国際機関が幸福度を評価する指標の開発を試みた。

    GDPに反映できないのは幸福度だけではない。アメリカ・マサチューセッツ工科大学のエリック・ブリニョルフソン教授とアンドリュー・マカフィー教授の著作で、2014年に全米ベストセラーとして注目された『ザ・セカンド・マシン・エイジ』は、デジタル技術の日進月歩に伴い、経済の仕組みや雇用、人間の役割などがどう変わっていくかを議論し、GDPの限界に関する議論も展開している。

    著者らは「デジタル情報やアプリなどの無償提供、共有経済、人的関係の変化といったものは、人々の幸福や生活満足度に既に多大な影響を及ぼしている」と述べ、これらがGDPに反映されていないことを指摘している。

    テクノロジーの進化とデジタル化によって、既存のモノやサービスに新たな価値がもたらされている。また、デジタルエコノミーの発展が加速し、より効率性や利便性の高い社会の実現につながっている。ただ、現在のGDP指標では計測しきれない部分が多いため、デジタルシフトが進む中国経済の全体像と実情を把握するのは一層難しくなってきた。

    豊かさだけで「小康社会」は実現できない

    もちろん、小康社会の実現の基礎になるのは経済的な豊かさに他ならず、経済成長は依然として重要性が高い。だが、小康社会の概念には、貧困撲滅など経済的な側面以外に、社会の発展や法制度、文化、教育、生活の質など、国民の関心が極めて高い分野も多く含まれている。つまり、小康社会は経済発展だけでは実現できない。中国のGDP成長率が今後も鈍化し続けていく可能性を考えると、教育水準の向上や、より安全・安心な社会の構築など、経済以外の側面を最優先の目標にすべきだろう。

    かつて中国統一を遂げた秦の始皇帝が不老不死を求めたさまざまなエピソードが残っているが、現代人はそうした行為は愚かであると見ている。しかし、人類はこれまで飢餓、戦争、疫病の3つの課題を克服してきた。これからは見果てぬ夢である不老不死にチャレンジすると、イスラエル人の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書『Homo Deus: A Brief History of Tomorrow(ホモ・デウス)』の中で説いた。

    不老不死の実現は幸福なのか不幸なのか、賛否両論があるが、世界の平均寿命は年々伸びている。ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授らが2016年に書いた『ライフ・シフトー100年時代の人生戦略』が世界中で話題を呼び、日本では「人生100年時代」という表現をよく目にするようになった。中国でも長寿化の進行に伴って、個の学び方・働き方・生き方が変容しつつある。豊かさ以外に、長い人生の幸福をどう定義し、どのように追い求めていくかが問われ始めている。

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