寺坂昭弘

コロナ問題は、いずれかのタイミングでは終息するはずである。時期尚早かもしれないが、コロナ後の世界のあり方を考えておくことも必要であると思う。
その一つは、行き過ぎた効率化の見直しである。コロナ以外でも、ここ数年間は、「数10年に一度」や「100年に一度」などと、言われていたような災害が相次いで発生しているが、復旧、復興の度に聞かれるのが、人手を含めた様々なリソースが足りないということである。人口減少や高齢化という要因はあるものの、省庁再編や企業のスリム化などで、人員はギリギリまで絞り込まれており、非常事態に対応できる余力は限られている。サプライチェーンは低価格を追及するために海外移転が進み、効率的で低コストではあるが、その反面極めて脆弱な仕組みとなっており、想定外のアクシデントが発生するとサプライチェーンの断絶が生じやすくなってしまっている。PCR 検査の体制不備が指摘されているが、検査を実施する地方衛生研究所は全国で 100 にも満たず、多くは自治体の財政難から予算や規模の縮小が続いていた。想定外のことが発生するのが当たり前となって来ている中で、ヒト、モノ、カネにおいて、平時には余剰と思われるようなリソースを保有しておくことが、After Corona において重要となるのではないか。
現在のように金融政策も財政政策も伸びきったゴムのような状況では、大規模な政策や機動的な手を打つことは難しく、ゴムの弾力を高めるためにも、コロナ危機終息後には財政に空いた大きな穴を少しでも埋めていくことが求められる。
ヒト、モノ、カネの行き過ぎた効率化を見直す一方で、IT やデジタル技術を活用した効率化は進める必要がある。マイナンバーなどを活用して、リアルタイムで所得が把握できていれば必要な人に対して、必要な休業支援を迅速に行うことも可能となる。また、感染予防や災害発生時を想定した、在宅リモート勤務や学校のオンライン授業、オンライン検診などにも本気で取り組む必要もある。
選択肢は無数に考えられると思うが、重要な事は従来のように、もの言わぬ将来世代に負担を先送りするのではなく、家計、企業、国・自治体それぞれが、痛みを分かち合う覚悟を持つことである。

One thought on “寺坂昭弘

  1. shinichi Post author

    三井住友信託銀行 調査月報 2020 年 4 月号

    時論 ~ Before Corona、After Corona

    調査部審議役 上席研究員 寺坂昭弘

    https://www.smtb.jp/others/report/economy/96_0.pdf

    Before Corona、After Corona

    コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

    既に感染者数30万人、死者数1.5万人を超えており、この先どこまで拡散するのかは全く分からない。感染者数は各国の検査基準の違い等もあり単純な比較は難しいが、人口 10 万人当たりの死者数を見ると、イタリアが約 10 人、スペインが約5人、イラン、スイス、オランダ、フランスなどが1~2人となっている。日本は 0.03 人と相対的には感染被害を抑え込めていると言えよう。

    感染拡大予防には、人ごみを避ける、不要不急の外出を控えることが必要であるが、これが経済に大きなダメージをもたらしている。3月の経済指標はまだ公表されていないが、観光関連や運輸関連の落ち込みが相当な規模となることは想像に難くない。

    筆者は基本的には財政規律派なので、景気対策を乱発することには否定的だが、今回は経済、社会を支えるための、大規模な財政支出を強く支持する。

    ただし、重要となるのは政策の内容で、足元で発生している景気の落ち込みは、様々な活動自粛や巣篭もり的な消費行動に起因するものである。自粛ムードの蔓延により不要不急の支出増加が期待できない中での交付金や消費減税のような政策は、砂漠に貴重な水をまくような政策となりかねない。

    特に、消費減税は実施までに時間がかかってしまうと、その間に買い控えを引き起こす可能性もあり、短期的には逆効果となる可能性すらある。また、非常時とはいえ税収の減少が見込まれる中で一時的な政策に恒久的な財源を当てることは、財政の不安定性を高めることにもなる。

    米国のように減税や資産課税の減免などが消費増加に繋がりやすい国ならばともかく、わが国における過去の減税政策の事例を見る限り、消費増税は過剰と思われるほど消費を冷え込ませるが、減税や給付金による消費押上げの効果は極めて希薄であった。

    政策としてはコロナウイルスの感染防止による国民の不安解消を進めると伴に、企業と雇用を守ることを最優先事項とすべきであると思う。

    特に消費活動の急速な縮小により、観光、運輸、外食などを中心として各企業の売上げは急速に減少しており、長期化すればするほど企業の存続や雇用に対する不安が高まることになる。

    既に政府からも様々な対策が打ち出されているが、雇用を維持するための助成金、企業を存続させるための運転資金の供与、租税公課や債務返済の減免などの資金提供の強化が必要である。

    また、コロナが終息した際のペントアップディマンド発生時に、企業側に値下げなどのインセンティブを出し易くさせるような支援策も有効なのではないかと思う。

    コロナ問題は、いずれかのタイミングでは終息するはずである。

    現時点では時期尚早かもしれないが、コロナ後の世界のあり方を考えておくことも必要であると思う。

    その一つは、行き過ぎた効率化の見直しである。

    コロナ以外でも、ここ数年間は、「数10年に一度」や「100年に一度」などと、言われていたような災害が相次いで発生しているが、復旧、復興の度に聞かれるのが、人手を含めた様々なリソースが足りないということである。

    人口減少や高齢化という要因はあるものの、省庁再編や企業のスリム化などで、人員はギリギリまで絞り込まれており、非常事態に対応できる余力は限られている。

    サプライチェーンは低価格を追及するために海外移転が進み、効率的で低コストではあるが、その反面極めて脆弱な仕組みとなっており、想定外のアクシデントが発生するとサプライチェーンの断絶が生じやすくなってしまっている。PCR 検査の体制不備が指摘されているが、検査を実施する地方衛生研究所は全国で 100 にも満たず、多くは自治体の財政難から予算や規模の縮小が続いていた。

    想定外のことが発生するのが当たり前となって来ている中で、ヒト、モノ、カネにおいて、平時には余剰と思われるようなリソースを保有しておくことが、After Corona において重要となるのではないか。

    批判が多いことは承知しているが、金融政策においては「のりしろ論」が語られることがある。

    次の危機に備えた利下げ幅を確保するために、利上げが必要であるとのロジックであるが、財政においても同様のことが言える。

    わが国は、バブル崩壊以降、幾多の経済政策を打ち出してきた。

    しかし、その時に打ち出された特別減税や時限措置の多くは、なし崩し的に恒久化され、結果としてわが国の税収構造を弱体化させて来た。危機時に大規模な財政政策を打つことは必要であるが、危機終息後には速やかに財政の再生を図るといった、メリハリのある運営が求められる。

    現在のように金融政策も財政政策も伸びきったゴムのような状況では、大規模な政策や機動的な手を打つことは難しく、ゴムの弾力を高めるためにも、コロナ危機終息後には財政に空いた大きな穴を少しでも埋めていくことが求められる。

    そのためには各主体が痛みを広く分かち合うことが必要となる。

    政府に対しては独立財政機関のような組織を立ち上げて、財源の伴わない支出を禁止し、野放図な財政弛緩に歯止めをかける。その上で、政府・自治体の職員増加、官民問わず非正規雇用者に対する、社会保障の整備や有給休暇の付与などのベネフィットの提供を義務付け、それに伴うコスト増加は製品・サービス価格への転嫁や増税などの形で、国民全体で負担することが求められる。

    ヒト、モノ、カネの行き過ぎた効率化を見直す一方で、IT やデジタル技術を活用した効率化は進める必要がある。台湾ではマスクの購入に関して、健康保険証番号を使い一人当たり週3枚までの購入を管理し、混乱を回避しているようである。また、今回の対策には休校などによる休業支援策が盛り込まれているが、マイナンバーなどを活用して、リアルタイムで所得が把握できていれば必要な人に対して、必要な休業支援を迅速に行うことも可能となる。また、感染予防や災害発生時を想定した、在宅リモート勤務や学校のオンライン授業、オンライン検診などにも本気で取り組む必要もある。

    選択肢は無数に考えられると思うが、重要な事は従来のように、もの言わぬ将来世代に負担を先送りするのではなく、家計、企業、国・自治体それぞれが、痛みを分かち合う覚悟を持つことである。

    昨年、流行語大賞となった「ワンチーム」を一過性のブームに終わらせてはいけない。

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