上野正彦

私が特に提起しておきたいのは、今日の日本では自殺の原因が厳しく追及されていない、ということである。それは「自殺はあくまでも本人の自己責任である」という考え方によるもので、自殺は他殺と違い、事件性はなく、本人の意思で死を選んでいるため、その動機が失恋でも失業でも病苦でも問題視されない。しかし、自殺の動機を詳しく分析すると、自殺者の多くは好んで自ら死を選択しているのではなく、それなりの苦悩があることがわかる。事業の失敗、失恋、リストラ、家族からの疎外等々、周囲の環境に圧迫され、追い詰められてやむなく死を決行しているのである。
いじめがあり、それを苦に子どもが自殺したとしたら、その子を死に追い詰めた原因は、紛れもなく、「いじめた側」にある。いじめ自殺は自己責任で死んだのではない。いじめの加害者たちによって追い詰められ、殺されたのだ。
もちろん、これは学校のいじめ自殺だけに限った話ではない。長時間の過酷な労働や職場でのストレス、家庭内暴力や身内からの疎外、恋愛のもつれなど、人が自殺を選ぶ背景には、必ずその人を精神的に追い詰めた外的な要因が存在している。
残された家族にとっても、身内が自殺した本当の理由を知りたいと思うのは当たり前のことである。しかし、警察は民事不介入であるから事件性がなければ動かない。

3 thoughts on “上野正彦

  1. shinichi Post author

    自殺の9割は他殺である

    2万体の死体を検死した監察医の最後の提言

    by 上野正彦

    自殺は他殺であると言っても過言ではない

     本書では、こうした社会医学、予防医学としての観点から、自殺問題について論じていく。そのなかで私が特に提起しておきたいのは、今日の日本では自殺の原因が厳しく追及されていない、ということである。
     それは「自殺はあくまでも本人の自己責任である」という考え方によるもので、自殺は他殺と違い、事件性はなく、本人の意思で死を選んでいるため、その動機が失恋でも失業でも病苦でも問題視されない。
     しかし、自殺の動機を詳しく分析すると、自殺者の多くは好んで自ら死を選択しているのではなく、それなりの苦悩があることがわかる。事業の失敗、失恋、リストラ、家族からの疎外等々、周囲の環境に圧迫され、追い詰められてやむなく死を決行しているのである。
     近年、問題となっている「いじめ自殺」などは、その典型であろう。いじめられた子が死を選んだのは、たしかに本人自身の行動である。しかし、本当は「いまの苦しみから逃れたい」ために飛び降りたのである。自殺というよりもその子は周囲の環境に追い詰められたのである。
     本来、こうしたいじめ自殺については、学校と教育委員会、そして警察が一体となって事実関係の把握に努めるべきだが、ともすると学校や教育委員会は保身のために、事実を隠ぺいするかのような行為に及ぶ。一方の警察も相手に他殺の疑いがなく、自殺であることが明白になれば、それ以上の操作を行わない。
    「いじめをなくそう」と言いながら、一向にいじめ自殺がなくならないのは、そもそも学校も教育委員会も警察も、誰ひとりとしていじめと自殺の因果関係についての、しっかりとした事実確認を行わず、曖昧にしたまま放置してきたからではないのか?
     このような現状をこれ以上、見過ごすことはできない。いじめがあり、それを苦に子どもが自殺したとしたら、その子を死に追い詰めた原因は、紛れもなく、「いじめた側」にある。
     いじめ自殺は自己責任で死んだのではない。いじめの加害者たちによって追い詰められ、殺されたのだ。自殺だから俺たちは関係ないと、他人事で済まされてはたまらない。厳しい言い方かもしれないが、そのような表現をして、周囲の人々にも理解を求めないと自殺の予防にはつながらないと考える。
     もちろん、これは学校のいじめ自殺だけに限った話ではない。長時間の過酷な労働や職場でのストレス、家庭内暴力や身内からの疎外、恋愛のもつれなど、人が自殺を選ぶ背景には、必ずその人を精神的に追い詰めた外的な要因が存在している。
     また、残された家族にとっても、身内が自殺した本当の理由を知りたいと思うのは当たり前のことである。しかし、警察は民事不介入であるから事件性がなければ動かない。では、誰が自殺の原因を明らかにするのか。私は法医学者がその役割の一端を担うべきだと考えている。

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  2. shinichi Post author

    自殺の9割は他殺である

    2万体の死体を検死した監察医の最後の提言

    by 上野正彦

    著者の上野正彦は監察医としてかつて2万体の検死を行ってきた。
    一言も言葉を発しない死体の声を聴き、死に隠された真相を解き明かしていく……
    それが監察医の仕事である。
    もの言わぬ死体を検死している監察医からすれば、死体でさえあれほど多くのことを語っているのに、生きている子どもたちを見ていていじめの実態がわからないはずがない。
    自我の確立のない子どもが果たして自殺するであろうか。
    「自殺は他殺である」ということを、もっと広く世間に訴えていく必要がある。

    大ベストセラー『死体は語る』の上野正彦による、最後の提言ともいえる本作。
    弱者が疎外され、孤立していく社会の闇、警察や学校、教師の怠慢、自己中心的な考えになっていく若者たちの姿に
    憂いを感じている著者が、年間3万人の自殺者を出す“自殺大国”となった日本の現状に警鐘を鳴らす――。

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  3. shinichi Post author

    (sk)

    上野正彦さんがなんと言っても、自殺は自殺だ。

    日本の社会は、自殺に甘すぎる。「自殺するのはいけない」という考えが、みんなのなかに弱すぎる。

    弱者だから。かわいそうだから。騙されたから。酷い扱いを受けたから。そんなのは理由にならない。自殺はいけないのだ。

    いじめた側がいけない。その通り。
    ブラック企業がいけない。それも、その通り。
    家庭で暴力をふるった人がいけない。そんなのあたりまえ。
    詐欺がいけない。それはそう。
    疎外した人たちが行けない。反省してもらいましょう。
    恋愛の果て、気が変わった。。。うーん。

    でも、いずれにしても、自殺はいけない。

    社会のなかで「自殺はいけない」というメッセージが発せられていたら。。。
    もし自殺を美化するようなことが禁止されていたら。。。
    そうだったら、これほどまでに自殺をする人はいながっただろうに。

    自殺を認めてはいけない。

    問題は違うところにある。殺された人が「自殺」と認定されてしまうこと。それだけは、なんとしても防がなければならない。

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