色名

ひとつの色の色域は広い
他の色の色域も広いだから色域は重なり合う
書物に材料や薪の数まで記されていたからといって
色が一定になるわけではない

深紫や浅紫という色は
紫草の根を何度も繰り返し染めることで得られる
『延喜式』には
  深紫を染め出すのに 織物二反に 紫草 18kg を使い
  浅紫を染め出すのに 織物二反に 紫草 3kg を使う
そう書いてある
  媒染剤には 赤みを出すため椿の灰を使い
  染液は 青みを抑えるために 60℃ に加熱しながら染める
そうも書いてある
だからといって
その通りにやれば 同じ色が出るわけではない
深紫を出そうとして滅紫が出てしまったり
浅紫を出すはずが半色が出てしまったりなどということが
よくあったに違いない
媒染剤として 椿の灰の代わりに明礬を使えば
色合いは違うものになるだろうし
時が経てば色の標準は変わるだろうし
絶対的な色は なかったに違いない
ある本には
深紫は黒紫と同じ色だと書いてあり
別の本には
黒紫は深紫に比べてより黒いと書いてある
深紫と黒紫が同じかどうか
もう誰にもわからない

色名は自由に使われ
その割には皆が色名から同じような色を想像してきた
そうはいっても
色名が使われるなかで 色は変わり続け
時には違う色になってしまった

人もまた時とともに変わる
変わるのは色だけではない

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