フェードアウト

だんたんとぼやけてゆく
はっきりしなくなる
だんだんと見えなくなる
いつしか消えてゆく

記憶はいつも曖昧で
実際より綺麗になったり
実際より汚くなったり
それでもひとつだけ
はっきりしているのは
実際とは違うということ

悲しい記憶はとどまらず
忘れるから生きていける
つらい記憶もとどまらず
なにからなにまで忘れてしまう

楽しい記憶もとどまらず
うまいということだけが残る
味の記憶のように
情景だけが残る
匂いの記憶のように
よかったということだけが残る
触れた記憶のように
覚えていたくても
覚えていることはできない

記憶が現実と混じって
別の記憶を作り出しているんじゃないか
そう思って
記憶をたどっていったら
どの記憶にも現実味がない

現実は ほんとうにあったのだろうか

過去の現実はすべてフェードアウトして
記憶のなかから消えてゆく
今という現実もやがてフェードアウトして
記憶のなかから消えてゆくのだろう

記憶から消えた現実は
どこにもない
消えた現実は
現実ではない

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