水野雅文

さまざまな研究結果から、生涯5人に1人が何らかの精神疾患にかかることがわかっています。つまり特別な病気ではなく、だれもがかかりうる身近な病気と言っていい。
精神疾患は若い世代で発症しやすいことも、あまり知られていません。海外の研究では精神疾患を持つ人の半数は10代半ばまでに発症しており、全体の約75%が20代半ばまでに発症しています。つまり精神疾患の多くが、学校教育を受けている年齢で発症しているということです。

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  1. shinichi Post author

    「精神疾患」発症する人の7割が25歳以下の現実
    若い世代への教育や啓発が求められている

    AERA dot.(文・熊谷わこ)

    https://toyokeizai.net/articles/-/419919?display=b

    子どもの心の病気が増えているのでは? そう感じている人も多いのではないだろうか。精神疾患の75%は25歳以下で発症するといい、若い世代への教育や啓発が求められている。東邦大学医学部精神神経医学講座教授の水野雅文医師に聞いた。

    子どもの心の病気は増えている?

    ――精神疾患は「特別な病気」というイメージを持たれがちです。

    そうですね。すごく珍しいイメージがあるかもしれませんが、さまざまな研究結果から、生涯5人に1人が何らかの精神疾患にかかることがわかっています。つまり特別な病気ではなく、だれもがかかりうる身近な病気と言っていい。

    精神疾患は若い世代で発症しやすいことも、あまり知られていません。海外の研究では精神疾患を持つ人の半数は10代半ばまでに発症しており、全体の約75%が20代半ばまでに発症しています。つまり精神疾患の多くが、学校教育を受けている年齢で発症しているということです。

    ――精神疾患を発症する子どもの患者さんは増えているのでしょうか。

    まず、子どもに限らず全体のお話をしましょう。厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査によると、2011年の精神疾患の患者数は約320万人、14年は約392万人、17年(最新値)は約419万人と、増え続けています。内訳としては、多いものからうつ病、不安障害、統合失調症となっています。これは医療機関を受診した患者さんのみのデータで、実際の患者数はもっと多いはずです。

    次に子どもはどうでしょう。子どもの精神疾患に関する全数調査はありません。「630調査」という医療機関への調査をもとにしたデータから受診者数は推測できますが。問題は医療機関にかかっていない子の数が多いことなので、受診者数は適切なデータとはいえません。

    また、小中高の児童生徒の自殺者数は近年2016年289人、17年315人、18年333人、19年339人と微増傾向が続いていましたが、コロナ禍となった20年は499人に急増しました。自殺者数が増える一方で、子どもの数自体は年々減っていますから、自殺率は明らかに増えていますよね、正確なデータはありませんが、ストレスの多さや生きづらさから、子どもの「心の病気」は増えていると言っていいでしょう。

    ――精神疾患の患者さんはなかなか病院を受診しないそうですね。

    日本は国民皆保険制度が充実していて、誰もがどこにいても多額の費用を負担することなく医療サービスを受けることができますよね。だからちょっと腰が痛いとか、風邪を引いたとか、おとなしく寝ていたほうがよくなるのではないかと思うような場合でも、「とにかく病院で診てもらおう」という人が多い。それなのに精神疾患は不調を感じていてもなかなか病院を受診しません。

    外来で初診の患者さんを診察すると、だいぶ前から悪かったであろう人はたくさんいます。私だけでなく多くの精神科医が、そう感じているのではないでしょうか。

    精神疾患を発症してから受診にいたるまでの期間を「DUP(Duration of Untreated Psychosis: 精神病未治療期間)」と言いますが、なかなか受診に至らない状況はそのデータにも表れています。

    精神疾患の中でも若い世代で発症しやすい代表格ともいえる統合失調症のDUPは、中央値で5~6カ月。DUPははっきりと症状が出て病気だと自覚した時期からカウントしていますが、実はそれ以前から眠れない、イライラが続くなど、ちょっとした症状が出ている場合が少なくありません。つまりかなり長い期間にわたって治療を受けないまま、病気が見過ごされていることになります。

    とりあえず放置してしまう

    ――なぜ受診に至らないのでしょう。

    ふだん私たちは鼻水や咳が出れば風邪のひき始めかな、熱が高ければもしかしたらインフルエンザかもなどと気づいて、安静にしたり病院を受診したりしますよね。風邪の症状はよく知られていますし、みんな経験したことがあるから、症状が出たときにどう行動すればいいか判断できるのです。

    精神疾患の症状は本人にわかりにくい場合が多いのですが、わからないわけではないんです。本人は何か変だと気づいていて、周囲も普段と違うと感じている。でも精神疾患のことをよく知らないから、その不調が精神疾患からきているものだと結び付けることができない。どう行動すればいいかわからないからとりあえず放置してしまって、なかなか受診につながらないのです。

    そして「病気に対する偏見(スティグマ)」も、受診が遅れる大きな理由の1つと言っていいでしょう。精神疾患には根強い偏見があって、精神疾患にかかることは恥だと考えてしまいがちです。患者さん本人も親御さんも病気だと認めたくない。一方、周囲の人も、本人に指摘しづらいというのが実情でしょう。

    回復が可能な病気だ

    もちろんそれ以外にもさまざまな理由が重なって、若い世代はなかなか受診につながっていません。医療が発達し、国民のだれもが保険証1枚でどこの医者にでも診てもらえる。そんな制度が整った文明国にいながら、大変残念なことだと思います。

    ――精神疾患には多くの誤解もあります。

    「精神疾患はよくなることはない」と誤解している人が多いですが、適切な治療で回復が可能な病気です。より早く見つけてより早く治療を始めるほどよく治ります。早く発見して適切な医療につなげたい。もっと言えば、発病前に見られるごくわずかな兆候をなんとか見つけて本格的な病気に移行するのを防ぎたい。それが若い世代の精神疾患にかかわる私たち精神科医の願いでもあるのです。

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