茨木のり子

真実を見きわめるのに
二十五年という歳月は短かったでしょうか
九十歳のあなたを想定してみる
八十歳のわたしを想定してみる
どちらかがぼけて
どちらかが疲れはて
あるいは二人ともそうなって
わけもわからず憎みあっている姿が
ちらっとよぎる
あるいはまた
ふんわりとした翁と媼になって
もう行きましょう と
互いに首を締めようとして
その力さえなく尻餅なんかついている姿
けれど
歳月だけではないでしょう
たった一日っきりの
稲妻のような真実を
抱きしめて生き抜いている人もいますもの

1 thought on “茨木のり子

  1. shinichi Post author

    歳月

    in 詩集『歳月』

    by 茨木のり子

     
     
     
     
     


    一人のひと

    ひとりのひとを通して
    たくさんの異性に逢いました
    男のやさしさも こわさも
    弱々しさも 強さも
    だめさ加減や ずるさも
    育ててくれた厳しい先生も
    かわいい幼児も
    美しさも
    信じられないポカでさえ
    見せるともなく全部見せて下さいました
    二十五年間
    見るともなく全部見てきました
    なんて豊かなことだったでしょう
    たくさんのひとを知りながら
    ついに一人の異性にさえ逢えないひとも多いのに

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