shinichi Post author20/12/2021 at 9:57 am 鳥の緯度 土屋秀夫 句集 ** (「帯」より) 蝶生る闇にハサミを入れる時 白地図の白い山脈鳥帰る 蒲公英はすべての風に名を付ける 刺青もピアスも春の愁かな 大阪の黒鯛泥臭く古典好き 蠅と居て見て見ぬふりの上手くなり おごそかな距離に並んで冷奴 魂のところが苦い干し鰯 美しき数列氷柱に芯はない 折皺の通りに畳む初あかり 北から南から鳥は日本に渡ってくる 赤い実を食べた鳥が私の荒地に種を落とした 種は俳句となって草花をさかせた 俳句の交わりから、詩のミューズから 到来した種が育って荒地は草原になった ** 家ごとに巨魚煮つめおり春の星 魂のところが苦し干し鰯 一度だけ訂正できる真葛原 武者小路実篤が床の間にあり鯖定食 コピー紙をさばき蝸牛を見失う 短編のはじめに葬儀アマリリス うしろから雨に抱かるる鶴の寺 手紙を読むように漬ける白菜 冷蔵庫あけるに少し抵抗す あちこちが座礁している秋の空 さっきまで誰かいた部屋雪あかり 緑陰に座して女神のようなひと もう父を忘れし母のアイスティー 満月の永久機関に船出せり ** 舐めて貼る八十二円レノンの忌 菜畑の奥に廃業ラブホテル 赤とんぼ物流倉庫という荒野 じゃが芋が鈍器のように置かれあり 寒晴の肉感的な椅子の脚 過去のあるビロードの椅子青嵐 木守柿通勤準急加速する 叡山をむこうにまわし赤蛙 アロハ着てパチンコ打ちにいく自由 電気ケトルの先に原子炉すべりひゆ ** Reply ↓
shinichi Post author23/12/2021 at 5:43 am いつまでも見送っている案山子かな さや豌豆つる延命の管青し そこにある祖父のマントの侵略史 ブルーシート主は不在梅早し 六十ですべてを捨つる梅一輪 初夢を篩にかけて残るもの 名刺入れ丸ごと焼いて雑煮食う 如月や分家の格を教えられ 忘れもの戻れば墓地に青嵐 新米を供えながらも恨み言 春めくや蛇口の錆の血の味よ 洗ひ髪トマトをかじる女中部屋 浮塵子なら日没までの舞踏会 玉音のそらへそらへと夏の蝶 生誕の血煙向こうから春の月 田植えすみ大海原のあらわるる 目を閉じて水のありかを聴く守宮 稲という草の実食ってアジアかな 空き缶をつぶす音聞く羽根布団 繋船の順に乗り越え春の潮 肋骨を削る裏庭風涼し 身の始末念頭にして霧を吹く 辣韮を三つぶ小皿においてみる 退去する軒に風鈴吊るし置く 風鈴をひとつ鳴らして父帰る Reply ↓
鳥の緯度
土屋秀夫 句集
**
(「帯」より)
蝶生る闇にハサミを入れる時
白地図の白い山脈鳥帰る
蒲公英はすべての風に名を付ける
刺青もピアスも春の愁かな
大阪の黒鯛泥臭く古典好き
蠅と居て見て見ぬふりの上手くなり
おごそかな距離に並んで冷奴
魂のところが苦い干し鰯
美しき数列氷柱に芯はない
折皺の通りに畳む初あかり
北から南から鳥は日本に渡ってくる
赤い実を食べた鳥が私の荒地に種を落とした
種は俳句となって草花をさかせた
俳句の交わりから、詩のミューズから
到来した種が育って荒地は草原になった
**
家ごとに巨魚煮つめおり春の星
魂のところが苦し干し鰯
一度だけ訂正できる真葛原
武者小路実篤が床の間にあり鯖定食
コピー紙をさばき蝸牛を見失う
短編のはじめに葬儀アマリリス
うしろから雨に抱かるる鶴の寺
手紙を読むように漬ける白菜
冷蔵庫あけるに少し抵抗す
あちこちが座礁している秋の空
さっきまで誰かいた部屋雪あかり
緑陰に座して女神のようなひと
もう父を忘れし母のアイスティー
満月の永久機関に船出せり
**
舐めて貼る八十二円レノンの忌
菜畑の奥に廃業ラブホテル
赤とんぼ物流倉庫という荒野
じゃが芋が鈍器のように置かれあり
寒晴の肉感的な椅子の脚
過去のあるビロードの椅子青嵐
木守柿通勤準急加速する
叡山をむこうにまわし赤蛙
アロハ着てパチンコ打ちにいく自由
電気ケトルの先に原子炉すべりひゆ
**
【遅日】ちじつ
なかなか暮れない日。日なが。
いつまでも見送っている案山子かな
さや豌豆つる延命の管青し
そこにある祖父のマントの侵略史
ブルーシート主は不在梅早し
六十ですべてを捨つる梅一輪
初夢を篩にかけて残るもの
名刺入れ丸ごと焼いて雑煮食う
如月や分家の格を教えられ
忘れもの戻れば墓地に青嵐
新米を供えながらも恨み言
春めくや蛇口の錆の血の味よ
洗ひ髪トマトをかじる女中部屋
浮塵子なら日没までの舞踏会
玉音のそらへそらへと夏の蝶
生誕の血煙向こうから春の月
田植えすみ大海原のあらわるる
目を閉じて水のありかを聴く守宮
稲という草の実食ってアジアかな
空き缶をつぶす音聞く羽根布団
繋船の順に乗り越え春の潮
肋骨を削る裏庭風涼し
身の始末念頭にして霧を吹く
辣韮を三つぶ小皿においてみる
退去する軒に風鈴吊るし置く
風鈴をひとつ鳴らして父帰る