美が消えてゆく社会

 インターネットはポルノと共に発展してきたという意見がある。コンテンツの量をみるとポルノの占める割合はとても高く、そういう意見があながち嘘ではないように思える。ポルノは、崇高な美とは程遠い。覆いがなく、情緒もない。見せびらかしと言ってもいいほど何も隠さず、直接的に興奮を誘い、ドーパミンの分泌を促す。
 1990年代後半から World Wide Web の利用が普及し、まずは画像が、その後動画が、そしてライブ配信が、最近では AI を利用したディープフェイク・ポルノまで出てきて、インターネットポルノは一大成長を遂げた。テクノロジーのおかげと緩い規制のおかげでポルノは一大産業にまで成長し、検索すれば果てしない数の過激なポルノが無料で手に入る状況が生まれてしまった。
 小さい教室に何十人も押し込まれて少しでも他人と違うことをすると批判されるような「教育」を受け、人格形成ができないまま漫画やアニメに夢中になりゲームに没頭し大人になった男性が、インターネットポルノ中毒になるのは、自然の流れとしか言えない。頭に VR(ヴァーチャルリアリティ)ゴーグルを装着し、画面と連動したラブドールを抱きしめている姿は滑稽だし、そもそも美しくない。
 何が美しく何が美しくないかというのは個人的なことではあるけれど、インターネットポルノは麻薬に似て美しくない。脳を刺激し人間を劣化させるものが、美しいはずはない。
 ポルノだけではない。ロボットがどんなに外見を繕ってみても、生き物たちが持っている美しさを手に入れることはできない。テクノロジーの進化とともに、私たちの中から、人間が本来持っていたはずの謙虚さとか礼儀正しさといった美しさが消えてゆく。宇宙の静寂の美しさや、自然が醸し出す美しさも消えてしまう。
もっと言えば、プロセスの美しさも消えつつある。ブロックチェーンも IoT も AI もビッグデータも、大事なのは結果だけ。プロセスはブラックボックスのなかにあって、誰もプロセスのことを気にかけない。テクノロジーのせいで、プロセスが消えてゆく。
そして、美が消えてゆく。

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