原田 啓一郎

生計困難者のために,無料又は低額な料金で宿泊所等を利用させる「無料低額宿泊所(無低)」の歴史は古く,その源流は明治期の篤志家が生活困窮者のために開設した無料宿泊施設に遡ることができる。昭和初期には,金融恐慌や世界大恐慌といった経済不況中の失業問題の深刻化により,公園や路上で生活をする人が増加し,無料宿泊所の役割は拡大した。第2次世界大戦後は,宿泊所への社会的ニーズは低下し,施設数は減少していたが,(NPO法が成立した)1999年に突如増加に転じている。2000年代に入ると,(NPOが運営する)無料低額宿泊所が増加する中,劣悪な環境の宿泊施設の存在が指摘されるようになった。法のはざまで困難を抱えている生活困窮者や生活保護受給者に対して劣悪な居住環境や食事等のサービスを提供する一方,そのサービス内容に見合わない高額な料金を請求し,それを生活保護費などから支払わせて利益を得ているいわゆる「貧困ビジネス」の事例が,今日,社会問題化している。

3 thoughts on “原田 啓一郎

  1. shinichi Post author

    無料低額宿泊所といわゆる「貧困ビジネス」

    by 原田 啓一郎
    社会保障研究Vol.3 No.1
    (2018/06)
    https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh18030110.pdf

    生計困難者のために,無料又は低額な料金で宿泊所等を利用させる「無料低額宿泊所」の歴史は古く,その源流は明治期の篤志家が生活困窮者のために開設した無料宿泊施設に遡ることができる。昭和初期には,金融恐慌や世界大恐慌といった経済不況中の失業問題の深刻化により,公園や路上で生活をする人が増加し,無料宿泊所の役割は拡大した。第2次世界大戦後は,宿泊所への社会的ニーズは低下し,施設数は減少していたが,1999年に突如増加に転じている。この背景として,無料低額宿泊所が,住居を失ったホームレスの人々の受け皿として住居の場を確保し,ホームレス状態からの脱却に寄与していたことが挙げられる。2000年代に入ると,無料低額宿泊所が増加する中,劣悪な環境の宿泊施設の存在が指摘されるようになった。法のはざまで困難を抱えている生活困窮者や生活保護受給者に対して劣悪な居住環境や食事等のサービスを提供する一方,そのサービス内容に見合わない高額な料金を請求し,それを生活保護費などから支払わせて利益を得ているいわゆる「貧困ビジネス」の事例が,今日,社会問題化している。

    住居に関する「貧困ビジネス」の形態には,社員寮などを改装した無料低額宿泊所ないしそれに類する施設に入所させる形態である宿泊所型と,一般アパートやマンションを借り上げて転貸する形態のアパート型があるとされる。これら業態は,①生活保護利用者等を対象とすること,②住居のほか食事等の生活上のサービスを提供すること,③サービスの内容に見合わない高額な費用を請求すること,④生活保護費や年金から支払わせて利益を上げていること,といった点で共通する。日本弁護士連合会は,こうした業態が,「生活困窮者が屋根の下で眠ることと引替えに,対価に見合わない劣悪な居住環境やサービスの利用を事実上強制する結果となっており,看過しがたい人権侵害を引き起こしている」と指摘している。直近の調査によると,無料低額宿泊を行う施設は全国に537施設あり,15,600人が入所している。そのうち,被保護者は14,143人で,40〜65歳未満が入所者(被保護者)全体の52.1%,65歳以上は39.5%を占めている。

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  2. shinichi Post author

    生活保護費を搾取する「大規模無低」の正体

    厚労省がお墨付き?貧困ビジネス拡大の懸念
    by 風間直樹
    東洋経済
    (2018/12)
    https://toyokeizai.net/articles/-/254894

    生活保護費の受給者の生活支援をめぐって、大きな問題が浮上している。

    保護受給者数は2018年7月時点で約210万人。2015年3月をピークにその総数は減少に転じている。世帯類型別に見ると、リーマンショック後は若年層などが増えたが、近年は景気回復を受け減少。母子世帯や傷病・障害者世帯なども同様に減少している。

    一方で拡大の一途をたどるのが、高齢者世帯だ。世帯類型別ではすでに5割を超え、受給者のうち全体の47%は65歳以上の高齢者となっている。高齢の保護受給者数は、この20年で約3.4倍に拡大。中でも「高齢単身者」の増加が大きい。

    住居を失った多くの高齢単身者の終の住処(ついのすみか)となっているのが、一時的な居所と位置づけられている社会福祉事業の1つ、「無料低額宿泊所」(無低)だ。

    生活保護で暮らす高齢者の「受け皿」

    無低は「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」として社会福祉法に位置づけられている。一方、生活保護法は居宅保護(自宅における生活支援)を原則としており、補助的に救護施設や更生施設などが保護施設として位置づけられている。そうした中で、無低のみが拡大を続けてきた。

    背景として考えられることは、単身高齢者の場合、民間アパートなどを借りようとしても拒否されるケースが多く、保護施設に加え養護老人ホームのような老人福祉施設も不足していることが挙げられる。その中で無低が生活保護で暮らす高齢者の「受け皿」として機能してきた経緯がある。

    もちろん無低の中には、小規模なグループホームの形態で社会福祉士など福祉専門職が中心となり、巡回などを通じて利用者の生活安定に取り組んだり、福祉事務所や医療・福祉サービス事業者と連携し、適切な支援を提供したりする施設もある。

    そうした小規模ながら良質な施設がある一方、拡大が続くのが入所者が多く要介護者も多い「大規模無低」だ。法的規制が少なく設置運営基準が緩いこともあり、1999年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立すると一気に広まった。

    一部の運営事業者は1施設当たりの入所者数を大規模化。ホームレス状態にある人に、公園などで運営事業者自らが「相談」と称して声をかけ、施設に入れてしまう勧誘行為も横行した。

    住居を失い福祉事務所に生活の相談に行くと、「大規模無低の利用を促された」と話す保護受給者は多く存在する。こうした運用実態が特定の大規模無低の急拡大に拍車をかけた可能性が高い。今では全国で無低施設数は537、入居者数は1万5600人に至っている。経営主体の8割弱がNPO法人だ。

    生活保護費はほとんど手元に残らない

    無低事業者は、保護受給者が受け取る住宅扶助や生活扶助の中から、さまざまな「利用料」と称し毎月徴収する金銭を運営財源としている。中にはそのほとんどを徴収する悪質な大規模施設運営事業者も存在し、「貧困ビジネス」と批判されている。

    ある大規模無低から逃げ出してきた元利用者は、「施設では家賃のほか、高い食費や水道光熱費や共益費も払わされ、生活保護費はほとんど手元に残らず生活再建につながらなかった」と話す。

    2015年に厚生労働省が実施した実態調査では、本来は一時的な居住場所であるはずの無低が、入所期間4年以上に及ぶ入所者が全体の3分の1を占めていることが明らかとなった。これはつまり、一度無低に入ったら出ることが難しい実態がある、ということになる。

    大規模無低の運営実態はどうなのだろうか。金銭管理と称し生活保護費を丸ごと取り上げたり、「施設内就労」の名の下で福祉の専門資格を有しない保護受給者を施設職員に据えて働かせたりするケースがある。1つの居室をベニヤ板で間仕切っただけで天井部分が完全につながっている居室を、「簡易個室」と称し50~200人を1つの施設に「収容」するような大規模無低も関東各地に存在している。

    こうした大規模無低の運営事業者などによる悪質な貧困ビジネスの実態を厚生労働省も問題視。厚労省が2015年に定めた現行のガイドラインでは、個室を原則とし、居室面積は7.43平方メートル=4畳半相当以上とされている。狭い床面積の場合は、住宅扶助(家賃)を減額する仕組みも導入された。

    だが、こうした最低限の規制すら骨抜きにしかねない議論が浮上している。厚労省は11月、貧困ビジネスへの規制強化などに関する検討会の初会合を開催した。無低の最低基準や保護受給者の日常生活支援のあり方などについての検討を踏まえ、厚生労働省令や条例を策定するスケジュールを示した。

    「簡易個室」を最低基準として公認?

    検討会の開催は規制強化の流れの中に位置づけられるが、業界関係者の間では「厚労省は『簡易個室』を最低基準として公認するのではないか」との懸念が広がっている。

    それは厚労省が初会合で示した資料に、「多人数居室、一つの個室をベニヤ板等で区切ったいわゆる『簡易個室』も一定数存在する」と、その存在を前提としているかのような記載がされているためだ。

    現行ガイドラインでは「個室が原則」とされているが、仮にこの「簡易個室」が無低の最低基準として認められれば、これまで相部屋を中心に大規模展開してきた無低運営事業者でも、ベニヤ板で簡単に1部屋を間仕切りさえすれば、そのまま生き残れることになる。

    この点については、12月17日の第2回検討会で議論される見通しだ。議論の行方によっては、悪質な貧困ビジネスの「儲けのカラクリ」を排除するどころか、その存在を肯定することになりかねない。そうした正念場を早くも迎えている。

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    「大規模無低」の簡易個室、布団を敷くスペースしかない(左)、個室とはいえ、ベニア板で間仕切っただけで、天井部分はつながっている(右)

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    厚労省の資料の中にある、簡易個室の存在を前提としているかのような記述。特に強調されることなく、さらりと書かれている

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  3. shinichi Post author

    生活保護費中抜きビジネス 住民「みんな思考停止している」

    by 山嵜信明と週刊女性取材班
    週刊女性
    (2016/1)
    https://www.jprime.jp/articles/-/6609

     さいたま市岩槻区にある施設は昨年12月16日、同市の貧困ビジネス規制条例に引っかかった。都市計画法で定められた開発許可を受けずに施設を建設し、生活保護受給者を受け入れ、保護費を不当に徴収したとされる。

     東京・新宿でホームレスをしていたときに“スカウトマン”から声をかけられた40代の入居男性が施設の内情を教えてくれた。

    「生活保護申請をさせられて、保護費を受給するまでは施設内でしか使えない1日300円分のキップをもらう。受給が始まると1日500円もらえるようになる」

     保護費支給日の朝、施設から集団でマイクロバスに乗る。約30人単位で区役所の窓口へ。受給するとすぐ、同行している施設職員に外で封筒ごと保護費を渡す。個人差はあるが月約12万~13万円だ。

    「明細書が入っているので1円もくすねることはできない。毎月9万8000円の寮費と小遣い分を差し引いた残額1万~2万円が翌日、渡される。その日はみんな徒歩15分のコンビニに行って、缶ビールを買って、店の前でダベって飲む。パチンコする人もいる。500円の小遣いでパチンコすると、1分ももたずに終わっちゃうから」(同)

     施設では朝、夕に食事が出る。メニューは、ごはんとみそ汁、漬物、納豆ぐらい。ごはんはおかわり自由。夕食には肉野菜炒めなどがつく。

    「調理経験のなさそうな入居者が作っているので、おいしいとは言えないかな。土曜日は決まってカレー。丼物はおかわりできません。クリスマスには小さなケーキとチキン、それに缶ビールが1本ついた(笑い)」(同)

     風呂は週3回。1人30分の時間制限がある。テレビを見るか、寝る以外はやることがない。飼い猫が迷い込んでくると、みんなで可愛がる。

    「情けないけど自立生活を考えている人はほとんどいない。もっといい施設があると思う。でも、みんな思考停止しているというか、考えたくないんだ。殴られたり怒られたりはしないから、“飼い殺し”だよ。

     隣の部屋とは薄い壁一枚なので、性処理も思う存分はできないしね。唯一のレジャーは散歩。やることがないので、みんなよく歩くんだ。どこのコンビニがいちばん近いかとか、ストップウオッチで計ったりして」(同)

     生活困窮者の支援に取り組むNPO法人『ほっと・ポット』の代表理事で社会福祉士の宮澤進さんは、こう憤る。

    「提供サービスと徴収金額は明らかに見合わない。この宗教法人は同区内でほかに4つの施設を運営しており、同じように入居者から金をむしり取っている。市は条例に基づき業務停止命令を出すべきだ」

     市生活福祉課はこう話す。

    「業務停止命令を出すと、入居者の住居を奪うことになる。入居制限して転居支援を進めるしかないが、施設に出戻りの入居者もいるほどなので」

     運営元の寺を訪ねた。駐車場で作業していた丸刈りの体格のいい男性は「寺の関係者なんていない」などとドスのきいた声で短く答えた。

     厚生労働省が6日に発表した最新データによると、全国の生活保護受給者は216万6019人で年々増加中。自立支援に使われるはずの私たちの税金はどこに消えたのか。

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