髙島屋呉服催事「百選会」は1913(大正2)年に創設され、当初から各方面より多くの文化人を招いて開催されました。毎回流行色とテーマを提示し、全国の産地から染織品の新柄募集を行い、髙島屋が審査発表する斬新でモダンなきもの催事として特に大正から昭和中期にかけて人気を博しました。
歌人与謝野晶子は「百選会」の顧問の一人として1917(大正6)年ごろから1940(昭和15)年までかかわり、流行色の命名や、百選会の「きもの」に対して歌を詠んでいました。与謝野晶子が詠んだ歌は、髙島屋のパンフレットに掲載されただけで、与謝野晶子の全集などに掲載されることはほとんどございませんでしたが、近年、関係者による調査が進められ、与謝野晶子が詠んだ詩歌は463首7編、流行色の命名は286色に及ぶことがわかりました。
瓜肌いろ
草まくら
木の間緑
まこもいろ
朝露いろ
濱撫子
銀紅色
残照色
花あふひ
千尋紫
夕波納戸
アルプス碧
月の出色
メロンいろ
与謝野晶子と百選会
髙島屋史料館
・袖振りて砂金も風に散ることを教へし春の時の色かな
・夕月夜芽ざくら色に明るかり絵巻模様の帯して行かん
・青海の波に浮べる船のごとのどかになりぬ佳き藍を着て
・こは何ぞ三宝院の御塔の壁絵を帯にしめたる天女
・芽ざくらの色淡く濃く重ねたるあかつきがたの春の雲かな
・東山ラヴィ更紗のつつむらん盛りの春とはたなりぬらん
・春の日の力のこもる曲線を染めし少女は頼まるるかな
・かぐや紅竹の林の椿をば裾にこぼさん袂に染めん
・染つれば絵巻模様となりぬなり信濃の山も相模の海も
・物がたり静かにつづけ灯のもとに少し身じろぐ静海波かな
・わたつみのうしほの色を上に着て風流男達へものいひてまし
・あけぼののいろする帯の地をはひぬ銀糸ほのかに残月の如
・銀糸もて倭模様を衣におく楊家の女さへしらぬことかな