丁寧に言葉を使う

部首 -sign- を含むフランス語の単語は
ラテン語の signum から派生している

signal signalement signaler signalétique signalisation
signataire signature signe signer signet significatif
assigner consigne consigner désigner insigne insignifiant
résignation soussigné と よく使う言葉ばかりで
そのなかに signifier という動詞がある

signifier の participe présent が signifiant
signifier の participe passé が signifié
ソシュールはこれらを
「le signifiant」と「le signifié」という名詞にしてしまう
名詞にしてしまっても
signifiant のほうにはなんとなく能動的な感じが
signifié のほうには受け身の感じが残っている

ソシュールは なぜそんなことをしたか?
「パロール」(日常で使われる言語)と
「ラング」(抽象的な事のための言語)とを
明確に区別したかったようで
それぞれに
「シニフィアン」(視たり聴いたり触ったりというように知覚できるもの)と
「シニフィエ」(抽象的な概念またはアイデア)というように名づけ
考えを進めていったようだ

『一九八四年』に関連して
「言葉が痩せていく」ことを危惧する人がいるけれど
「パロール」ではなく「ラング」が痩せるのを
「シニフィアン」ではなく「シニフィエ」が痩せるのを
危惧しているのだろう

ところが(それなのに)
ニュースピークには たくさんの「シニフィアン」が含まれている
抽象的なことだけを痩せさせるのではなく
日常的なことまで痩せさせようとしているのだ

オーウェルが設定したニュースピークの恐ろしさは
日常的なことまで痩せさせてしまうことにある

日常的な言葉が痩せ
日常が痩せた社会のなかで
ソシュールがが素晴らしいといっても
オーウェルがすごかったといっても
悪い冗談でしかない

どうしたら言葉が豊かになり
 広がりを持つようになるのか
どうしたら社会が豊かになり
 人の表情が和らいでゆくのか

まずは 考えたことを言葉にするときに
少しだけ注意してみよう
丁寧に 丁寧に

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