散歩

普段歩いたことのない道を歩いてみたいと思って
君と セーヌ川の南側を 図書館に向かって歩き出した

アラブ世界研究所の不思議な窓から入る陽の光を浴び
パリ植物園付属動物園で主のようなオランウータンに挨拶する

オステルリッツ駅のホームに停まっている電車を眺め
ケ・ド・ラ・ガールというメトロの駅に停まる電車を見上げる

メトロとはいっても地下を走っているわけではなく
小さな車両が道路の中央に設けられた高架線の上を走っている

改札口の前のトルコ料理の店で ケフタとケバブサンドを食べる
うまい いや ほんとうに うまい しかも 安い

満足したところで また 図書館に向かって歩き出す
歩きすぎたせいか 休んだというのに 足は重い

そう思っていたら木の階段が見えてきた
こんなに横に広がった階段は 神社でも 寺でも 見たことがない

四隅の高いビルが 図書館なのだろうか
階段を上ると「入口」の文字が見えてくる

「入口」の文字の先には また「入口」の文字がある
図書館らしいものは どこにも見えてこない

階段を下がる あっ 図書館だ
さっきから 図書館の上を 歩いていたのだ

図書館に入る 広い どこまでも広い
質問をする 優しい  人が優しい

中庭が見える廊下に置かれた椅子に座る人たち
コンピュータを開いて食い入るように見つめる人たち

僕たちの散歩は終わった
もう一歩も歩きたくない

それにしても いい空間だ
いるだけで 気持ちいい

なんでいままで 一度も
ここに来なかったのか

ここは僕の場所だ
ここは僕の故郷だ

君の隣に座って中庭の木を眺める
僕は 木になった気がした

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