大雨と山くずれ 必ず起こるがめったに起きない(谷誠)

斜面の水の集まりやすい部分には、土壌層もしくは風化した基盤岩の中に長い年月をかけて自然に排水構造ができていると考えられます(人工的に積まれた盛り土は、効率的な排水が困難なため、熱海で2021年に発生した土石流災害でわかるように、くずれやすく危険です)。大雨があっても速やかな排水によって地下水面が上昇せず、浮力が大きくならず、土壌層はくずれず安定を保ちます。結果的に、雨水は地下水に遮られることなく鉛直方向(真下のことです)に浸透できます。逆に言えば、このメカニズムによって土壌層はたしかに長く安定を保てるのだけれど、500年から数千年に一度は、大雨時に地下水面が上昇して浮力が大きくなり、土壌層は崩壊するということでもあります。

One thought on “大雨と山くずれ 必ず起こるがめったに起きない(谷誠)

  1. shinichi Post author

    大雨と山くずれ 必ず起こるがめったに起きない・・・ 

    谷誠

    https://hakulan.com/wp/

     降りはじめからの雨量が200mmを超え、その後に強い雨があると山くずれが発生し始めることがわかっており、気象庁が住民に警戒避難を呼びかける「土壌雨量指標」はこれをふまえています。しかし、一回の大雨において多数の斜面の中でくずれるのはごく一部ですから、あるひとつの斜面は、最低でも500年くらいは、何度も起こる大雨に耐えて安定を保ちます(何千年もくずれない斜面もあるようです)。

     急斜面上の土壌層は樹木の根のネットワークの補強によってすべらずに持ちこたえているのですが、大雨の時にくずれるのは、地下水面が上昇して浮力が大きくなり、まさつ力が減って不安定になるからです。天気予報でよく聞く「降り続く雨で地盤がゆるんでいるので土砂災害に注意してください」は、主にこのメカニズムに基づいています。ですから、長く土壌層がくずれないためには、土壌層内の地下水の排水がたいへん重要なはたらきをするのです。

     山くずれは、右の写真のように、山ひだのような凹地形の水の集まる場所で起こり、そこから土石流が流れ出す場合が多いです(なお、渓流の奥にはいくつも急斜面があるので、ひとつのくずれが500年に1回でも沢の出口が土石流に襲われる頻度は高くなり、大変危険です)。くずれが起こると土壌層の下の基盤岩がむき出しになり、降雨時には基盤岩のくぼんだ場所に沿って表面流が流れます。水流の侵食力と草や木の生命力の競争が長く繰り返されるわけですが、数十年から百年もすると樹木の根が太くなることでようやく土が流されずに固定され、斜面に土壌層と森林が復活してくるようになります。ただ、大雨があると凹地形のところに水流はいつまでも集まり続けるので、土壌層内にパイプような水みちが残されると推測されます。

     結局、土壌層が山崩れ長期間かかって再生されるため、その長い時間の間に、土壌層内にはパイプのような「速やかに地下水を排水する水みち構造」ができあがり、大雨でも土壌層がくずれず500年以上も安定を保つようになると考えられます。

     
     以上のことから、斜面の水の集まりやすい部分には、土壌層もしくは風化した基盤岩の中に長い年月をかけて自然に排水構造ができていると考えられます(人工的に積まれた盛り土は、効率的な排水が困難なため、熱海で2021年に発生した土石流災害でわかるように、くずれやすく危険です)。大雨があっても速やかな排水によって地下水面が上昇せず、浮力が大きくならず、土壌層はくずれず安定を保ちます。結果的に、雨水は地下水に遮られることなく鉛直方向(真下のことです)に浸透できます。逆に言えば、このメカニズムによって土壌層はたしかに長く安定を保てるのだけれど、500年から数千年に一度は、大雨時に地下水面が上昇して浮力が大きくなり、土壌層は崩壊するということでもあります。

     大雨時の河川流量の増減が貯留関数法のような「貯留と流量関係に基づくタンク型の流出モデル」によってうまく説明される物理的根拠は、これまで、地表面流など斜面に沿った流れの力学的法則がタンク型のモデルで近似されるためだと考えられてきました。しかしそうではなく、こうした単純な流出モデルで流量が計算できる根拠は、雨水が土壌層の内部を鉛直に浸透する際の土壌物理学的法則がタンク型の流出モデルによって近似できるためだ、ということがわかってきました。なお、岩波書店の雑誌「科学」に、貯留関数法に物理的根拠がないのではないか?との物理学者からの疑問が掲載されたことがありますが、水文学分野においてその物理学的根拠が示されていることを強調したいと思います(英語論文和文解説が公開されていますので、専門的内容ですが紹介しておきます)。

     緑のダムによる流量ピーク低下機能が大雨でも発揮し続けるのは、土壌層が地下水で飽和せず、雨水の鉛直浸透が続くからなのです。

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    土壌の保水力は大雨でも発揮され続ける

    山地斜面をおおう森林土壌がもつ河川流量のピークを低くする洪水緩和機能は、大雨でも発揮されていることがわかってきました。この緑のダムも人工のダムの機能と同じく過信することはできませんが、科学的な理解をきちんとふまえて水害に立ち向かうことがたいせつです。

    詳しい解説: 乾燥土壌と湿潤土壌の保水力(PDFファイル)

      

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    森林の水消費が大きいことはなぜ重要なのか

    樹木は日照りにも葉の気孔を開けて光合成と蒸散を続けるので、小規模の森林伐採は河川流量を増やします。ところが、大規模な伐採は、大気への水蒸気供給を減らしてしまうので、内陸の雨量を減らして乾燥気候をもたらします。なので、地球規模の水資源問題は、森林管理と強くつながっているのです。

    詳しい解説:森林と水(PDFファイル)

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