縮小社会とテクノロジー(齊木大)

社会の縮小化に拍車が掛かっている。今年4月に総務省が公表したデータでは「過疎関連自治体」が全自治体の半数を超えた。人口減少には歯止めが掛からず、地域社会を「高齢化」の側面で語る段階は終わり、縮小していくことを受け止めたうえでどのように地域の暮らしを継続させていくかを考えねばならない段階に来ている。
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さて、これからの縮小社会での難題は、これらの取り組みを極めて少ないリソースで実現しなくてはいけないことだ。世帯が小さくなるから同居者にやってもらうわけにもいかない。福祉サービスで実現しようにも担い手がいない。また、身体介助のように直接援助ではなく、あくまで様子を見守って声を掛けるような間接援助なので、仮に人がサービス提供するにしても報酬の小さいサービスにならざるを得ない。
ここにテクノロジーの出番がある。
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要するにテクノロジーとヒトの協働であり、これは以前から提唱されてきたコンセプトである。しかし、テクノロジーの進化で協働を実現しやすくなってきた今だからこそ、そして地域のダウンサイジングがこれから本格化する入り口にいる今だからこそ、テクノロジーとヒトが協働する仕組みを真剣に実装する絶好のタイミングだと言える。地域が衰退段階に入ってしまってからの投資では遅いのである。

One thought on “縮小社会とテクノロジー(齊木大)

  1. shinichi Post author

    縮小社会とテクノロジー

    by 齊木大

    https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=103466

     社会の縮小化に拍車が掛かっている。今年4月に総務省が公表したデータでは「過疎関連自治体」が全自治体の半数を超えた。人口減少には歯止めが掛からず、地域社会を「高齢化」の側面で語る段階は終わり、縮小していくことを受け止めたうえでどのように地域の暮らしを継続させていくかを考えねばならない段階に来ている。

     ダウンサイジングする地域で高齢者の医療・介護を維持していくには、サービスの提供効率を高めるとともに、医療・介護の需要の伸びの抑制が欠かせない。特に介護需要については、リスク対応とフレイル予防が必須である。ここでリスク対応とは、脱水、低栄養、誤嚥、転倒など高齢期における生理と機能の変化に伴う変化に対し、例えば普段の水分量を自覚し、自分の感覚だけに頼らず必要量を摂るよう意識するといった取り組みが挙げられる。

     また、フレイル予防で言えば、運動機能だけでなく口腔機能や社会性の維持が重要だ。東京大学高齢社会総合研究機構機構長の飯島勝矢先生が取りまとめた研究成果では、「フレイル・ドミノ」の入り口は「社会とのつながりの脆弱化」だとされる。運動だけすれば良いわけではないことがエビデンスを以て示されている。

     さて、これからの縮小社会での難題は、これらの取り組みを極めて少ないリソースで実現しなくてはいけないことだ。世帯が小さくなるから同居者にやってもらうわけにもいかない。福祉サービスで実現しようにも担い手がいない。また、身体介助のように直接援助ではなく、あくまで様子を見守って声を掛けるような間接援助なので、仮に人がサービス提供するにしても報酬の小さいサービスにならざるを得ない。

     ここにテクノロジーの出番がある。つまり、エビデンスによって示されている「やるべきこと」の多くは、高齢者自身の普段の行動を見える化して、本人が自覚できるような環境を作ること、あるいはフレイルが進行しないように社会との接点や他者とのコミュニケーションを維持することなので、ITとの親和性が高い。

     筆者は現在、内閣府SIP第2期高度マルチモーダル対話技術の研究開発の一環で、高齢者と対話して普段の健康状態や生活状況の変化をモニタリングする対話AIのユーザー実証に携わっている。このAIは単に雑談をするのではなく、当社が厚生労働省老健事業補助に基づいて策定・普及に取り組んでいる「適切なケアマネジメント手法」に基づき、専門職にとって必要な情報収集を実施するための質問を実装し、かつNICTやKDDIが有する雑談モジュールなどと組み合わせて高齢者が抵抗感なく、普段使いしてもらえることを目指している。独居高齢者や人口密度が低い地方部に暮らす高齢者の生活に寄り添う活用方法を想定している。実際、実証に参加した方々からの反応も良好だ。一定の評価を得ている理由は次の2点にあると考えられる。

     第一に、利用者自身が参加できるようなテクノロジーの使い方にしたこと。センサーと比べると対話技術は一方的に「監視されている」感覚を抱かずせずに済む。このため、高齢者本人も会話に容易に参加できる。AIを「育てる」あるいはAIと「一緒に記録する」ような、高齢者とAIとの距離感を作るのが目指すべき姿と言える。

     第二に、AIだけを使うのではなくヒトと絡めたサービス設計にしたこと。システムの向こう側にいる、専門職レベルのヒトにつながるようなサービスとすることで、ヒトの手触り感を感じてもらいつつ、限りあるリソースでサービス提供力を高めるのだ。

     要するにテクノロジーとヒトの協働であり、これは以前から提唱されてきたコンセプトである。しかし、テクノロジーの進化で協働を実現しやすくなってきた今だからこそ、そして地域のダウンサイジングがこれから本格化する入り口にいる今だからこそ、テクノロジーとヒトが協働する仕組みを真剣に実装する絶好のタイミングだと言える。地域が衰退段階に入ってしまってからの投資では遅いのである。

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